「外界から守られた部屋にいる子どもみたい」-齊藤工、安藤裕子にズバリ言い当てられ驚愕

(撮影・朝岡英輔)

門脇さん、宮沢さんでないと、この絵は成立しなかった


安藤「それで、誰が演じるのかとなったときに、とても幻想的な世界なので、“目で語る人”がいいなと、パッと浮かんだのが門脇麦さんと宮沢氷魚さんでした。実現したのは齊藤監督の人望あってのことですが、実際おふたりじゃないと難しかったですよね」

齊藤「そもそも安藤さんの脳裏に浮かんだふたつの残像に導かれたキャスティングですから、その像が確かだったということですね」

安藤「MVの場合、歌詞があるので恋が浮かびあがって見えてくるけれど『ATEOTD』からはもっと狂気的なものを感じます。ほかに暮らす術を持たない人たちだから、踊るにしてもギリギリの薄皮一枚の人間性になっている。そういう深い闇が描かれていながらも恐怖を与えることなく絵本の世界を体現できているのは。あのおふたりだからですよね。100年後の、疫病で滅びゆく世界を舞台にした主人公が、ほがらかであるはずがない。そんな設定のなかに置かれても門脇さんは佇んでいるだけでちゃんと絵になっていた」

齊藤「日常風景だけでも作品として成立させてしまう被写体としての深みを感じました」

安藤「宮沢さんの瞳は本当に透き通っていて、人間の目じゃないみたい。それでいてご本人には熱や野性味がある。雄々しいけれども希望の泉のようでもあって……、未来をもたらす存在ですね」

齊藤「今こうして氷魚さんを想うだけでも何かが浄化されるようです。そんな神々しい象徴たり得るのは彼のもつ聡明さや純度の高さゆえですけど、お話ししてみると年相応の若者の一面も。……彼みたいな人って今までいなかった気がして。誰も通っていない道を颯爽とスムーズに歩んでいるように見えるんです。だからこれからも何かと競うでもなく、呼吸をするように、いろんな作品と向き合っていくのでしょうね。今回、氷魚さんのあの宝石のような瞳が印象的であるという安藤さんの言葉から、じゃあどうやってどのタイミングで彼の瞳に色を持たせるかを決めていったり、 “門脇さんは踊れる方なので、踊ってみては” と安藤さんがアイデアをくださったことで、それが軸になりました」

安藤「振付が入るとなったときは、いわゆるワルツナンバーではないので、難しいのではないかと思ったんです。でも逆にもし3/4拍子のワルツのリズムだったら、すごく人為的な踊りになってしまった。6/8拍子の拍で踊るから、それこそ捧げ物のようで、妖艶になりましたね。火の神に捧げる巫女の踊りのような」

齊藤「プロットには儀式的に毎日踊っているかのように書いたのですが、儀式的であることにシュールさも感じていました。たとえば自粛期間に、運動ができなくて仕方なく無理に楽しく踊って動画公開している方たちが、こんな状況だからとにかく明るく前向きに!と、踏ん張っちゃうことでできる足跡の悲しさ、というのかな。いっぽうで儀式的という言葉どおりにとれば神に捧げる踊り。門脇さんの表現力によっていろんな捉え方ができるようになりました」

 本作で、安藤さんは初めて劇伴を手掛けています

齊藤「この世界にしか鳴らない音があるから、根源的なものを共有している人からでないとその音は生みだすことはできないと思い、お願いしました。まるで交換日記をしているようでしたね。まず安藤さんの楽曲があって、それに対してMVという僕からの返事があって、そこから生まれた作品をさらに安藤さんに包み込んでいただくという」

安藤「以前だったら間に合わなかったと思うんですけど、いまは自分である程度の作業ができるようになっていたので、あらかじめデモをお聴かせできたし、時代と私の発展が追いつきました(笑)。こういう音色の楽器がここまでこの長さで弾かれて、こうやって広がって……、というふうに、映像に音がにょきにょき生えるようなものにしたくて。絵と同じように増幅する音ができたら成功かなって」

齊藤「今後、劇伴のオファーがあったら、いかがですか?」

安藤「私はもともと音楽を始める前には小説を書いたりしていたし、絵も描くから、自分の話が動き出すということにすごく憧れがあったんです。なので今回、映画で自分の作った音が流れるというワクワク感がありました。とても楽しかった」

齊藤「これがきっかけになればうれしいです。僕はもちろん、TTF#6『でぃすたんす』(『ATEOTD』と同時上映)の清水康彦監督からも、今後、劇伴のお願いがいくかもしれません」

安藤「お待ちしています! でも締め切りだけはもうちょっと長くしてもらえるとうれしい(笑)」