オリンピックに向けスカウトも!? 中条あやみカヌーとの出会いを語る


「本作を通してパラアスリートへの応援が増えたらうれしい」


 劇中では、遥の補装具を調整するエンジニア役を、以前にも共演経験のある杉野遥亮が演じる。

「杉野さんと最初の共演作で出会ったときはお互いに10代のとき。しかも杉野さんはオネエ口調の役どころで、今回再会したらとても大人っぽくなっていて違和感もあったのですが(笑)、一緒に成長してきた兄妹のような感覚もあり、安心してお芝居に臨むことができました。お母さん役の大塚寧々さん、コーチ役の小澤征悦さんなど、他のキャストの皆さんも本当にすてきな方ばかりで、誰が欠けても、こんなに素敵な作品にならなかったんじゃないかと思います」

 本作は、実在するパラカヌー日本代表選手と、本作の脚本を手がけた土橋章宏との交流から生まれた物語。中条は、実際にその選手にも会い、さらに車椅子利用者から指導も受けるなど、障がいのある役への役作りも入念に行った。

「車椅子の指導をしてくださった先生からも、なぜご自身が車椅子生活になったか、そのときにどんなことを思ったかという話も伺い、そのときおっしゃっていた言葉がずっと頭から離れませんでした。その方は、今まで普通に接してくれていた人が、そうしてくれなくなるということが怖かったとおっしゃっていて、私もハッとしました。もし私が、同じような状況で腫物のように扱われたら、その人とはもう会いづらくなってしまう気がします。役作りの過程で多くの気付きを与えていただきました」

 オリンピック陸上選手の夢を絶たれ失意の遥は、亡き父の友人であるカヌー指導者・宮本(小澤征悦)からカヌーへの挑戦を勧められ、感情を爆発させてしまう。あの迫真の演技を生んだ思いとは。

「あのシーンは私自身、思い出すと胸が締め付けられるほど、つらいシーンでした。オリンピック有力候補と言われていた遥にとって陸上は何にも代えがたい、自分を誇れるものだった。でもそれを突然、奪われてどんな思いをしたのか。もし自分だったらと思ったら本当に苦しくて。宮本コーチは、遥を前に向かせるためにカヌーを勧めるんですけど、そんなに簡単なものじゃないんだと、私自身、自分に何が起こっているか分からないくらい腹が立ったというか、いろいろな感情がこみあげてきて爆発したみたいになったんです」

 遥役を通して、障がいのある人やパラアスリートについての意識にも変化が。

「やはりこれまでは、どんなに大変だろうとか、悲しい思いをされただろうとか、センシティブなこととしてとらえている自分がいました。でも車椅子の先生や、実際に選手にお会いしてみると皆さん、本当に前向きで。アスリートとしてどんなことも強みにつなげていく姿勢に、障がいの困難さばかりに目を向けていたことが恥ずかしいというか、目を覚まされた思いがしました」

 走り幅跳びの選手として、学生選手権で無敗の“女王”だったころの遥は、負けず嫌いで高慢さが目につくキャラクター。

「ホワンとして見えるかもしれませんが、私も実はけっこう負けず嫌いなので(笑)共感できる部分もあります。ただ遥は事故に遭い、周りの人の支えがなくては生きられないと思ってしまう。でもコーチの言葉で、それまでだって多くの人に支えられていたんだということに気づかされる。私もその言葉がすごく心に残りました。誰でも、悲しいことやつらいことがあると自分は1人だと孤独を感じてしまいがちですが、手を伸ばせばそばで見守っている人がいると、私も気づかされました」