栗栖良依「五輪パラのディレクターが コロナ禍で見せたい未来」


6年間で培った未来像


 障害のある・なしに関わらず文化芸術活動に参加したい誰もが出会い、共に創るアートプロジェクトとして誕生したヨコハマ・パラトリエンナーレ。今年は「our curioCity ‒好奇心、解き放つ街へ」をテーマに、6年間の集大成を迎える。

「パラトリエンナーレでは“未来を見せる”というのをテーマにしていて、2017年は私の中では2020年モデルだったんです。2020年のオリンピック・パラリンピックで必要になるであろうことを実験していました。そして、今年は2025年モデルを見せられる自信があったのですが、全てコロナで書き換わってしまいました」

 新型コロナウイルスの感染拡大で延期や中止に踏み切るアートイベントが多い中、リアルとオンラインを融合させた新しい形での開催に舵を切った。前回話題を呼んだサーカスプログラムでは、世界のサーカスアーティストと日本のメンバーが国境を超えた「サーカスアニメーション」の共創に挑戦し、オンライン配信でパフォーマンスのたすきをつなぐ。ブックプロジェクト「読む展覧会 そのうち届くラブレター」では、「障害」 とは何かを根底から問うテーマを設定し、クリエーターたちが写真や映像、書や詩などさまざまな方法で表現する。これらは作品集として一冊に収めるほか、特設WEBサイトでは、音声ガイドやテキスト解説で目や耳で楽しむことができる。

 コロナ禍でパフォーマンスを作る方法や障害のある方に安全に参加してもらうノウハウは「やってみないと身につかない。踏み切って良かったです」と栗栖さん。コロナ時代に求められる新たなイベント像とは。

「社会全体がオンラインになって、コロナが収まってもこの流れは止まらないと思います。そうすると、例えば福祉業界などデジタルの波に乗りそびれる人たちが多く出てくるんですね。パラトリエンナーレでは、かなり丁寧にレクチャーをしています。オンラインでも手話通訳はどのタイミングで入れてもらうと良いのかとか、画面を通しての見え方とか、リアルとは全く違います。でも1回参加してしまえば、そんなに難しいことではないと分かってもらえる。やったことによって経験が増えて、できることが広がったと感じます」

 最後に、思い切った質問をしてみた。「こんな時代に芸術文化は必要ですか」?

「今ってギスギスした社会じゃないですか。それは想像力の欠如だと思うんですね。国語や算数だけでは補えない文化や芸術の力ってあると思うんです。アートは人の心を豊かにしてくれますし、日々生きるのに苦しい人の支えや生きがいになるものとして役立てられるものだと思っています。アーティストの力をふんだんに借りて、これからも届けていきたいです」

 こんな時代だからこそ、アートに救われる人も多いのではないだろうか。リアルとオンラインが紡ぐ新しい豊かさに触れてみたいと思った。
 (TOKYO HEADLINE・丸山裕理)

【栗栖良依】パラ・クリエイティブプロデューサー/ディレクター/東京2020総合チーム クリエイティブ・ディレクター。1977年東京都生まれ。7歳より創作ダンスを始める。東京造形大学に進学し、長野五輪では選手村内の式典交流班として運営に携わる。2006~07年、イタリアのドムスアカデミーに留学、ビジネスデザイン修士号取得。10年、骨肉腫を発病し右下肢機能全廃。翌年、右脚に障害を抱えながら社会復帰を果たし、国内外で活躍するアーティストと障害者をつなげた市民参加型ものづくり「スローレーベル」を設立。14年より「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」総合ディレクター。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020
【会期】プレ会期 8月24日〜/コア会期 11月18〜24日
【チケット】無料(一部有料)
【場所】オンライン/横浜市役所アトリウム
【URL】公式サイト
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