徳井健太の菩薩目線 第79回 メジャー層に見つかるより、マイナー層に見つけられた方がいい

　芸人、アイドル、ミュージシャン、その他パフォーマンスをしている人たち。それらが、“どう見つかるか”は大事だ。

　息が長い人たちを見ていると、マイナー層に見つけられた後に、メジャー層に発見されるケースが多いように思う。かつて、有吉さんが『アメトーーク！』で、「ブレイクするっていうのはバカに見つかるってことなんですよ」という至言を残しているけど、最初からバカに見つかると、とんでもないことになる。

　俺みたいなひねくれた人間を含め、マイナーだったりニッチだったり、そういう層の支持があったうえで、メジャー層の熱狂が加わるケース。そして、デビュー直後に大衆やメジャーの支持を得て、ロケットスタートに成功するケース。どちらの方が「結果的に良い」のだろうかと考えたとき、俺は後者が恐ろしくてたまらない。Perfumeも米津玄師も前者であって、後者は大手事務所のアイドルグループなどが相当するのではないかと思う。

　お笑いで言えば、キングコングやオリエンタルラジオは、まさにメジャー層を出発点としたケースだろうけど、彼らは天才を超越して、不死身だったに過ぎない。普通だったら甦れない。最初からメジャー層に見つかると、死が全速力で向かってくる。

　デビューシングルが、いきなりタイアップになる――。たしかに、素晴らしいことなんだと思う。本人たちはこぶしを握って喜びをあらわにするだろうし、事務所もガッツポーズ。だけど、双方には立場の違いがある。事務所にとって、その芸人やアイドルやアーティストは“1／∞”に過ぎない。極論、1年後、2年後にコケていたってかまわない。1年後に違う玉を用意すればいいだけ。会社は天国、本人は地獄。メジャーからの出発は、第一コーナーを曲がったスピードで、そのまま第四コーナーまで走らなきゃいけない。

　マイナーに見つかる方がいい、と決めつけたいわけじゃない。でも、結果的に息が長いのはどっちなんだろうと考えると、マイナーに見つかってから、メジャーに嗅ぎつけられた方がいいと思うわけです。メジャー層は、良くも悪くも最大公約数だ。新しい最大公約数が現れたら、何のこだわりもなくそっちに行ってしまう。顔だけでアイドルを選ぶ人は、より自分好みの顔のアイドルが出現するたびに、どこかへ行ってしまう。

　早い段階でメジャーに見つかる人は、“俺調べ”では器用な人が多いように思う。裏を返せば、メジャーに見つからない人は偏っていたり、不器用だったりする人が多い。器用な人は大変なんだ。最初から最後まで第一線に居続けるためには、永遠に見つかり続ける努力をしなければいけないんだから。こんなこと、できない人がほとんどだ。

　不器用な人は、不器用なりにどうやって気を引くか、 神経が擦り切れるくらい考えなきゃいけない。特に、自分が存在する業界の人間を振り向かせるために、摩耗しなきゃいけない。どっちの方が幸せか分からないけど、器用な人も不器用な人も、どちらにもやらなきゃいけないことがあるらしい。バカに見つかり続けるということは、延々と猛暑の中で生きていかなければいけないし、ニッチな人に見つかるためには、寒風が吹き荒れる中で何とか暖を取る方法を考えなきゃいけない。どっちもツラいことだと思う。

　くすぶり続けている、ということは、メジャー層に振り向いてもらっていないということ。彼ら彼女らが関心を示さないなら、とことん面倒な人間、小難しい人間、ひねくれた人間に偏ってもいいと思う。ただ、“刺す”意識はあってほしいなと願う。マイナーに見つけられたとしても、メジャーに見つからないなら、一時でも春を体験したメジャーに見つかるだけの方がいいと思うから。

　昔だったら、深夜番組やサブカル雑誌のような、マイナー層の好事家たちに発見される住処があった。でも、今はそれがない。マイナー層に見つかったほうがいいとは言ったものの、分かりやすい踊り場がない。M－1チャンプになる、キングオブコント王者になるなんてのは究極的な目標すぎて、メジャーを意識していない人にとっては、現実感がわかない人だっているはずだ。

　その代わりなのか、YouTubeを含めて動画サービスが登場し、誰でも好きなことが表現できる機会は圧倒的に増えた。でも、星の数ほどチャンネルが溢れている中で、マイナー層に見つかるって、それもそれで果てしないものがある。だから、マイナーを自負する人ほど、良いもの発見したら、積極的に声を大にして伝えていってほしいなと思う。

※徳井健太の菩薩目線は、毎月10日、20日、30日に更新