古谷経衡氏が第2次安倍内閣を総括「バカが増えた」【2020年重大ニュース】
2020年12月、本当だったら今頃は東京オリンピック・パラリンピックの「祭りの後」感が漂うまったりした空気が流れていたのかもしれない。しかし新型コロナウイルスの感染拡大で五輪は2021年に延期され、まだ始まっても終わってもいない。世界は新型コロナで未曽有の危機を迎えた。そんな中でも2020年もさまざまなニュースがあった。ここでは文筆家で評論家の古谷経衡氏に今年の重大ニュースを振り返ってもらった。
古谷経衡氏
量的緩和はそんなに悪くない。2度の消費増税が失敗
「一番は安倍退陣。それが最大のニュースですね。衝撃でした。いつかは退陣するだろうとは思っていましたが、少なくとも来年までは続けるかとは思っていたんですけどね。米大統領選挙は下馬評通りバイデンが勝ったので、それほど大きな衝撃ではないですね」
ではまず安倍政権を振り返ってください。
「2012年12月に第2次安倍政権が誕生して、2013年から本格始動となりましたが、私は当初支持していました。イデオロギー的な支持というよりも、アベノミクスについての期待というのは非常にあった。事実として2012年の総裁選で石破さんを破った段階で、株価がドーンと上がりました。
日本ではこれまで量的緩和ということを真面目にやってこなかった訳ですが、異次元緩和は国際的にもインパクトがあり、2%の物価目標がある程度達成されるんじゃないかと期待しました。GDPも多少良い時期あったんですが、愚直にも2回消費増税をやって自分で潰してしまいましたね。
三党合意をあえて反故にし、安倍政権では消費増税は封印する、となったら景況は全然違っていたでしょう。ただし僕は今でも量的緩和についてはそんなに悪いとは思っていません。よく株を持っている奴だけが得をする、と言いますが、とはいえ、リーマンショック時に日経平均が7000円くらいだった所から2万円台に回復した。株価は高いほうがいいに決まっていますから。それは実績としてはいいんじゃないでしょうか。しかしコロナという予想もしなかった出来事が起こり、それ以前から消費税10%増断行で内需が強く冷え込んだ。今年の経済成長率は-4~5%になるのは確実とされ、今さら『Go To』なるものをやっても遅い。結局GDP600兆円は夢のまた夢となり、政権公約を実現できないのでアベノミクスは失敗に近いという結論になります。
あと、彼の達成したかった憲法改正は全く進んでいません。僕は石破さんを支持していますので、『集団的自衛権という指定席切符を持っているのに座席に座れないのはおかしい』という石破理論でいうと安保法制には賛成なのです。しかし現実的に集団的自衛権をどう行使するのか、という運用はこれからだと思います。政策についてより、これは“安倍政権のせい”というわけではないんですが、この7年間で言い方は悪いですがバカが増えたなという感じがしています」
バカというのは政治家に?
「いえ、むしろ有権者ですね。政治家もそうですけど、有権者のほうがバカになったという感じがします。テレビのコメンテーターも毒にもクソにもならない人が量産された。“私は中立です”と言いつつも、エクストリームな安倍擁護を展開したり、ポジショニングトークで野党を叩いたりする。“中立じゃないじゃん!”という人が堂々といろいろな媒体に出るようになってきて、日本社会の空気が下方に変わったなという気はします。それが安倍さんのせいかどうかは分からないですが、この7年間で顕著にはなっている気はします」
ネット上で飛び交う根拠のない言説を信じてしまう人が増えたとか、メディア自体の報道の質が落ちたということもある?
「どういう相関関係があるかは立証が難しいですが、僕が物書きとして商業デビューしたのが11年前の27歳くらいの時で、10年以上経って今、38歳になったばかりなんですが、僕より数段若い人が保守にもリベラルにも出てこない。研究者はおりますが、大衆評論家に若い人がいない。みな、我も我もとYouTuberを目指します。とにかく文章を書かない。なにか主張があるとすぐ言葉で喋って、それを動画に撮る。それは言論の領域ではありません。こと言論とか評論的なるものに新星は全然出てきていません。報道も、テレビでは昔からスキャンダルは花盛りだった。例えば、ロス疑惑って殺人事件じゃないですか。あの報道が加熱するのは分かるんです。豊田商事の事件だって、記者の目の前で会長が殺されているんだから、そりゃみんな追いかけますよね。それが今は芸能人の誰が大麻やコカインやりましたとか。別に僕は大麻やコカイン使用を見逃せとか、大麻解禁をぶつわけではないですが、小さい。不倫がどうとかも道徳の問題であり、報道すること自体馬鹿げていると思います。そんなものは報道ではない。単にゴシップです。そういうのはゴシップ誌でやれよと。テレビで流すに値しない。それが平然とニュースになるのが異常です」
安倍前首相については桜を見る会の前夜祭の問題も再燃しています。
「一応総額で8000万円程度になっていますけど、ロッキード事件なんて何十億円というお金が動いていました。もし安倍さんが疑獄をするなら、ロッキード級のことはやってほしいですよね(笑)。そこまでやったらまあ大したものだと思う。訴追はされましょうが(笑)。あらゆる事件や話題が矮小化している気はします。
先日も記事を書いたんですけど『鬼滅の刃』も良作ではあるがやや小粒かなと。僕はアニメを全部見まして、原作漫画も全部読みました。映画もです。ただ他にたくさん面白いものはある。鬼滅にハマるのは良いが、だったら『国民クイズ』とか『ザ・ワールド・イズ・マイン』も読んだうえでのことか。だが読んでいない。こういうことをいうと『老害オタク』と叩かれる。知性とか教養の量ががくんと落ちている」
どういったことが理由なのでしょう。
「まず長い文章を書く作業をしない。なにかあったら動画を撮って喋る。それがまず理由の一つ。あと僕が学生時代、90年代なら読むのが当たり前とされた作品を全部すっ飛ばして読まない。最低でも『沈黙の艦隊』くらい読んでくれよと。あと同じジャンプなら『包丁人味平』はマストでしょ、と。電子ですぐに読めるにも関わらずです。黒澤や小津を全部見ろとは言わないが、『七人の侍』『東京物語』は教養として見といてくれよと。宮台真司氏がネット番組で田原総一朗氏と論争になり氏は“メディアが国民を甘やかすからいけない”と言っていましたが、その通りだと思います。