【インタビュー】岩井秀人が語る『いきなり本読み!』の世界
「いきなり本読みを全員がやればいいのに(笑)」と岩井(撮影・蔦野裕)
いろいろなところで『いきなり本読み!』をやってほしい
本来、その試すというのは演劇界ではワークショップだったのでは? それをよりコンパクトにしたということ?
「コンパクトというか、それ自体を外に開いたんです。それを見せられる形にした。いきなり本読みを全員がやればいいのにって思います(笑)。
さっき“演劇と敵対しているくらいが――”と言ったのは、みんな理由もなく、1カ月くらい稽古をして、1カ月くらいどこかで本番をして、決まったものを毎日見せて、ということをやっていることにみんな疑いがないんですが、僕は体感でそれがすごいストレスだった。
それで無理が起こっているところって山ほどある気がするんです。でも、“今までそうやってきたから、1カ月稽古して、1カ月くらい本番して”っていうレールだけできてしまって。でもそれじゃない方法はいっぱいあるはずなんです」
もともと演劇好きじゃないからこそ発想できることかも。
「そうかもしれないですね。演劇が大好きな人は演劇を変えたがらないとは思います」
ずっと演劇をやってきた人からすると“演劇はこういうもの”というものがあって、その中でどうするかという考えになってしまうのかも。
「そうかもしれないですね。でも、『いきなり本読み!』をやってみたら、いわゆるお芝居といってやっているものより、ずっと演劇的だった気がします。“その場で起きている”という臨場感は圧倒的にこっちのほうがすごい。読み間違えるし、その場で役は変わるし。プラスお客さんと話したりもする。僕も最初は役人物とかキャラクターっていうのが、いろいろな俳優がいろいろな役を演じると役人物とかキャラクターが混乱するんじゃないかって思っていたんですよ。荒川さんがやった役を今度は黒木華さんがやる。お客さんはどっちのイメージを持てばいいんだろうと混乱するかと思ったら、そんなことはなく、全部プラスに行くということが分かった。
『ごっちん』という作品があるんですが、これは小学3年生の女の子なのにプロレスラーのような体を持ち、それがコンプレックスになっているといった物語。その役を荒川さんがやると体も大きいので、半分“そんな小学生いるかいな”と思いつつ、みんなで笑いながら見る。話が進んで、ごっちんが自分の恋心がかなわなくて傷つくというところを、黒木さんが演じると、荒川さんの演じたコンプレックスの部分はキープしたままで、“そうか、この娘も内面は少女なんだ”ということが、ちゃんとシリアスに響くんですね。二人の俳優が演じたほうが、現実のその問題をダイレクトに表せてしまっているのかもしれない。それで泣いちゃうお客さんもいました。たった1日でそんなところまで行ったので“これのほうが全然演劇じゃん”って思いました。よく“舞台上には何もなくて、舞台と客席の間に生まれるものが演劇だ”みたいなことが言われるんですけど、まさにそういう感じだよなって。みんなの頭の中にキャラクターが立ち上がっていく。これはすげえかもなって。ただやる人によってはバラエティーになってしまう。だからかじ取りはちゃんと神経を使ってやっていかないといけないとは思っています」
「外に開く」という主旨から、岩井は舞台上では俳優たちに演出しながら、同時に観客に向けての司会的な立場も担う。
「多分、今、あのポジションをできる人はいないと思うんです。『いきなり本読み!』というのはいろいろな人にやってほしいとは思っているんですよ。広めてほしいとも思っているんですけど。でもあのポジションをできる人ってあまりいないんですよ」
なぜ?
「演出家で俳優もやれていないと、多分あのポジションってできないと思うんです。進行しながら俳優という仕事のアウトリーチも同時にしながらやっていくんですね。だからちょっと特殊なポジションなんです。ただ司会をして、“次はどの場面をやります。ではやってください。はい終わりました”というのではない。どういうことをやったらこの俳優さんは面白くなるかなということと、この場面ではまだこれくらいの状態でいておいたほうがいいなっていうことを考えながらやっている。だから俳優の目の前でやる演出と、客席の一番奥からする演出の両方を一緒にやるような感じなんです」
演出はできても司会はできない人は多そう。
「そうなるともう一人司会が必要になりますよね。だから文化として残すことを考えると、僕のポジションはいろいろな人ができるようにならなくちゃいけないし、あちこちでいきなり本読みをやっていたほうがいいんですよね。やってほしいとも思うけど、やれないよ、とも思うし…複雑ですね」
確かに客に見せようと思ったら、ただ稽古場の本読みを見せるわけにもいかない。
「黙々とやっているだけだと、なかなかあの面白さは伝わらないと思います。リアルタイムに編集していくような作業が必要なので、そのポジションが必要。もしくは僕じゃなくて、神木君が司会として仕切りつつ参加する、俳優だけの本読みはありだと思います。俳優たちだけで何かいろいろ試してみる。彼だったら司会もできるから。台本が面白ければ、いわゆる演出っていうのはなくても成立するので」
『いきなり本読み!』はこれまで岩井と縁のあった俳優たちを集めてスタートしたのだが、俳優たちの間でも口コミで広がり「初めまして」の俳優も参加するようになっている。今後、どのように発展し、どんな俳優が参加するのか。そしてこの企画はもちろんなのだが、岩井からは「演劇以外のなにか」がまだまだ飛び出しそうなので、そのへんにも注目したい。 (TOKYO HEADLINE 本吉英人)
岩井秀人(WARE)プロデュース『いきなり本読み!in 国際フォーラム』
【日時】12月25日(金)
【会場】東京国際フォーラム ホール C
【料金】全席指定 S 席8000円、A 席7000円
【問い合わせ】キョードー東京(TEL:0570-550-799=平日11~18時/土日祝 10~18時)
【進行・演出】岩井秀人
【出演】松たか子、神木隆之介、後藤剛範、大倉孝二
【日時】12月25日(金)
【会場】東京国際フォーラム ホール C
【料金】全席指定 S 席8000円、A 席7000円
【問い合わせ】キョードー東京(TEL:0570-550-799=平日11~18時/土日祝 10~18時)
【進行・演出】岩井秀人
【出演】松たか子、神木隆之介、後藤剛範、大倉孝二