徳井健太の菩薩目線 第88回 漠然とした貯金って、皆勤賞みたいな不気味さがある

皆さんは、給料をどう解釈しているだろう？

俺たちみたいな芸人を含めたフリーランサーは、固定給という概念がない。給料を給料だと思っていない、というか思えない。過去の自分が、「あんときはがんばったね」と、未来の俺にポンっとお金を置いていくイメージ。あるいは、間欠泉から不定期かつ不鮮明に金が沸くイメージ。

一方、固定給の人にとって、給料は給料然として映るのだと思う。毎月指定の日に、決められた額が振り込まれる。ありがたや、なんて手を合わせるのかもしれない。

例えるなら、前者は狩猟や採集によってお金を得る働き方で、後者は農耕によってお金を得る働き方。前者は、蓄えが減ってきたら、またハンティングに出掛ければいい。後者は、蓄えがなくなると次の収穫期を待たなければいけないから、なるべく農耕地を大きくしようと汗を流す。

どちらのお金の稼ぎ方がいいんだろう？

俺は狩猟的な働き方をしているから、固定給よりも間欠泉の方が楽だと思っている。とは言え、毎月決まった分の農作物が確実に収穫できる畑を持っている方が、いろいろと計算しやすいからいいのかもしれない。現に、世の中は定期的に収穫期が訪れる人にローンを組みやすくしている。俺が明日マンモスをハントしてくるかもしれないのに、米を10俵作れる人を厚遇する。

考えれば考えるほど、相容れない世界なんだと思う。そもそもフリーランスは、足し算の世界で生きている。来月は10万円かもしれないし、100万円かもしれない。世の中の多くの人が「休みたい」と言うけど、俺たちの仕事は休もうと思えば、いくらでも休める。世の中の願望のすぐ隣にいるけれど、実際に休むと、何ヶ月後か先のお金は失われる。なるべくいただけるのであればいただきたい。だから、休まない。

固定給の人は、先のように「休みたい」と言う。そりゃそうだろう、休んでももらえる額が変わらないのなら、休もう、休もうとする。つまり、引き算の世界で生きているように感じる。

お金の使い方も、似たような傾向が双方にある。フリーランスは、節約する以上に、使った分を上回る稼ぎを叩き出そうと奔走する。俺の周りでも、使いたいときに使う人が多い。当然、ダメな人間も多いけれど。逆に、固定給は堅実で真面目だ。使うと、その分だけ水かさが減るから倹約しようとする。俺は2000円のハンバーガーを高いと思わないけど（それは収入が潤っているとかではなく）、水かさが減ることを気にする人は、「2000円のハンバーガーなんてありえない」と指摘する。

お金の得方が、いつしか人の性格にまで影響を与えているのだとしたら、結構恐ろしいことだと思う次第だ。2000円のハンバーガーは高くないと思っていた人に、固定給の生活を1年もさせれば、「もったいない」と思うようになるのかもしれない。その程度で考え方が変わるのかもしれないなら、もっと適当でいいんじゃないか、あるいはもっと想像力を膨らませてみてもいいんじゃないか、なんて思う。

その固定給とやらを振り込んでくれる会社は、半年後は潰れているかもしれないし、もしかしたら病床に伏して身動きが取れなくなっているかもしれない。「たらればでしょ？」と言われるかもしれないけど、貯蓄10万円の人も貯蓄3000万円の人も境遇が同じになる逆徳政令は起こりうる。一体だれが、行動を制限されるウィズコロナを想像しただろう。

お金が減っていくことは考えられるのに、なぜ命がすり減っていくことは想像できないのかなぁと思う。そんな不安を考えないで、定期的に入ってくるお金を使うわけでもなく、ただ眺めているのは、もう釈迦の域に到達しているのかもしれない。ニューノーマルのさとり。

やっぱり子どもの頃から「休んじゃいけません」みたいな教育の弊害なんだろうか。皆勤賞のようなワケのわからない一定の評価が存在するのって、百害あって一利なしだと思うのだけど。漠然とした貯金って、皆勤賞みたいな不気味さがある。熱が出れば休んでいいし、食いたいもんがあれば食えばいい。使いたいと思ったときに、“もったいない＞使いたい”にはなってほしくないな。