舞台の真ん中で演劇を見た! VR演劇『僕はまだ死んでない』を体験

こんな見え方になる

 準備は簡単だった。配信チケットを購入しつつ、視聴するためのアプリ「Blinky」をダウンロード、そして自前のスマホをゴーグルにセットして視聴スタートだ。


 演劇を見る気分で見始めたから、まずは予想していなかった海辺の風景に驚いた。2人の子どもたちの声に言葉に耳を傾けていると、次の瞬間、別の場所に。白衣の女性が覗き込んでくる。きっと病室、たぶんベッドの上だ。右から左から聞こえてくる友人と父の声。見回してみると妻と思われる女性の姿も見える。


 主人公のこれまでとこれからについて、周りの人たちは「本人には聞こえていない」と思っているので、真剣だけれど言いたい放題。その中から主人公の人となりや、これまでの人生といった情報をまとめていると、自然と主人公の気持ちに寄り添いはじめ、「自分が主人公と同じ立場になったらどうだろう」という思いが湧きあがってきた。


 最初こそVRゴーグルが煩わしくも感じたが、物語が進むほどに作品の世界に没入。演劇を見ているのだと感じさせる演出、VRならではの演出もあって、演劇における新しい表現の広がりに、ときめきも感じた。


 と、しみじみ思ったのは2回目を見た後だ。最初の鑑賞では、天井の照明を見上げて「なぜこうなっているのか」と意図を探ったり、目の前の父親の顔をスルーしてセットのつくりを確認してみたり、女医のスカートはどうなってるのかと凝視したり。「ところで主人公はどうなってるんだ?」と真下を見てみたり体をひねってみたりもした。ずいぶん勝手で失礼な見方だと自分自身に半ば呆れた。ただ、劇場でもお気に入りのキャストばかりを目で追ってしまうことがあるし、「あのシーンでもう一人のキャストはどんな反応をしていたのだろう」とリピート観劇してチェックすることだってある。それを考えると、VR演劇は限りなく劇場で演劇を見る感覚に近いのかもしれないとも感じた。



 またこれは記者だけの問題かもしれないが、自宅など劇場の外で映画や長めの映像作品を見るとき、集中力を保てない問題がよく発生する。単純に邪魔が入ったり、視界に入った別のものに思考を占領されてしまったり、一時停止したり戻したりしてコントロールできる便利さゆえのデメリットもある。それがゴーグルをかけて鑑賞することでずいぶんと解消され、「芝居を見た」という感覚がしっかりと残った。


 25日に都内で行われた取材会で、ウォーリー木下は、コロナ禍で無観客映像配信やアーカイブ配信で演劇を楽しむなかで、より生の演劇に近い臨場感をどうしたら伝えられかと考えるなかで、VR演劇に取り組んだと話した。


「お客さんが好きなところを見られるのが演劇の魅力だと思っています。好きな俳優をずっと目で追っているお客さんがたくさんいてそれはそれでいいし、眠くなったら目をつぶっている人もいる。劇場ってそういう場所だなと思っています。いろんな人たちが集まって個人個人の心の中でドラマを楽しむということだと思っている。見たいところが見られるというところが、今回のVR演劇の演劇らしいところかなと思う」


 鑑賞はヘッドマウントディスプレイやVRゴーグルをつけて鑑賞するほか、PC、タブレット、スマートフォンなど幅広いデバイスでも見られる。


『僕はまだ死んでない』は、脚本を広田淳一が担当。出演は内海啓貴、斉藤直樹、加藤良輔、輝有子、渋谷飛鳥ら。配信は3月31日まで。配信チケットを購入すると7日間視聴ができる。詳細は公式サイト( https://stagegate-vr.jp/ )から。