被災地で本当に“役立つ”情報は何か。【故郷の誇り胸に、福島が歩んだ10年】
FMいわきのスタジオ。「震災時はみんなここの放送を頼りにしていた」。地元の人がそう信頼を寄せる
生活情報では、取材に出向いて知ることもあった。ある日、避難所で出会った高齢の女性は、何日も歯磨きができていなかったと声を漏らした。聞けば、避難所では歯ブラシ不足などで口腔ケアが十分でないことが課題になっており、体調を崩す高齢者もいた。それまでは優先度の低い口腔衛生情報だっだが、安部さんは大手日用品メーカーに取材し、避難所でもできるオーラルケアの情報を伝えた。
市民の声で気づくこともあった。ライフラインの復旧状況を伝えた放送では、リスナーから「復旧した地域だけでなく、まだ復旧していない地域がいつ再開するかを知りたい」と意見が寄せられた。「ハッとしました。先行きが分からないと今日どう生活していいか分からない。置き去りにしてはいけないことだと思いました」。FMいわきでは、水道局から復旧計画を入手し、再開の目処や予定を発信することで被災者が生活の見通しを立てられるよう、伝え方に工夫を凝らした。
「非常時こそ双方向のつながりが生かされるのでは」と安部さんは話す。市民参加の番組が多いFMいわきでは「顔の見えるラジオ」として、リスナーとの距離の近さを大切にしてきた。市民もまた対話のできるメディアとして、声を届けやすかったのではないだろうか。「メディアにはそれぞれの役割があります。私たちにとっては細やかな情報を伝えることが当たり前のことなんです。」FMいわきはこれからも住民に寄り添い続ける。
(TOKYO HEDLINE・丸山裕理)