「私が結婚できない理由」【36歳のLOVE&SEX】#5
またうっかり、クレジットカードの申し込みをしてしまった。
しかも年会費がかかるタイプのクレジットカード。
別にクレジットカードが必要だったわけでもなく、付帯特典がどうしても使いたいという理由があったわけでもない。
しかも、ポイントをまとめたいから同じカードしか使わないように心に決めていて、新規のカードは家計管理が複雑になるから、もう作らないようにしようとも思っていたところだ。
ではなぜ契約してしまったのか。
某携帯電話ショップにポケットWi-Fiの修理を依頼しに行ったときに、いろいろ相談していたら、なぜかキャンペーンの紹介をされてしまって。
一通り説明されて、「お客様ならカードを作ったほうがお得ですよ」と言われて、プランの相談に乗ってもらったり質問にも答えてもらったし、別にいいか、と思ったから。
信じられない、断れない性格にもほどがある。
別に必要でもないし、向こうだって相談に乗るのが仕事なのだから、忖度するようなことでもない。ああ、やらかした。いい大人になって、またホイホイ言われた通りに行動してしまった。
私といえば、日頃から主張が強く、声量もあるので、ふたつの意味で声が大きい人間という印象を周りには持たれていると思う。
嫌なことはキッパリ断る、そう見えるだろう、実際は全く逆なのだ。
仕事においても営業されたらうまく断れないし、私生活でも誘いを断り切れないことはよくあった。好みのデザインでもないのに店員から勧められて服を買ったことも数えきれないし、好きでもないのに「断るの悪いから」という理由でホテルに連れていかれたこともあった。
もっと若い、東京に来たばかりの頃は、「これを飲めば痩せる」とか、「このエステに通えば痩せる」とかで何十万のローンを組まされたことも何度かあった。
一度はちゃんと支払ってしまったし、解約に友達の手を借りたこともあった。
外国に行けばボラれ、開催されないコンサートのチケットを買わされたり、タクシー代はしょっちゅうだよなぁ。
そんな過去の断れなかったあれこれを思い出して私は思った。
「ああ、結婚したい。」と。
結婚して、夫に何もかも決めてほしい、と。
いや、待て。結婚というのは二人の人間が集まっているだけで、どちらか一方に強い権限があるわけではなく、ましてや夫と呼ばれる人が万能なわけでもなく、常に最善の決断ができるわけでもなく、結婚したらもう余計なクレジットカードの契約をしないで済むかと言われれば、それはNOである。
仮に、そんなに何もかも決めてくれる夫とかいう人がいたとして、私に都合よくクレジットカードの契約だけ止めてくれるだろうか、いやそんなわけがない。
毎日の起床時間、朝食のメニュー、風呂の温度、寝るときの照明の明るさ、視聴するテレビ、服装、趣味、仕事……あらゆることに口出して思い通りにしようとしてくることくらいは容易に想像できる。
それは都合悪いよ、私がほしいのはそういう夫じゃない。
となると、この「結婚したい」は、自分に関わる重要なこととか面倒なことを誰かに決めてほしい、というただの心のだらけでしかないのだ。
話は変わるが、私にも何人か友人はいる。
既婚者が多く、主婦をしている人もいれば、働いている人もいる。
ある日、私のもとに「揚げない唐揚げを作った」と写真が送られてきた。
それを見た私は、揚げない唐揚げどころか、唐揚げすら作ったことがない、唐揚げの材料すらよくわかっていないことに気付いた。
また別の日、別の友人が魚を色々な種類で調理したという写真を送ってきた。
私にとっては魚のさばき方もわからなければ、魚の名前も知らないし、どの魚をどう調理したら美味しいかということももちろん知らない。
料理をしないわけではない、必要最低限の自炊はもちろんする。大学時代には飲食店のキッチンのバイトをしていたこともあった。
だが、私は「生活」ができていないのだ。
人々が当たり前のようにやっている「生活」、毎日のやりくりとか、積み重ねとか、ほかの人への思いやりとか、おもてなしの気持ちとか。
そういう大人として当たり前にできているべきこと、知っているべきことが欠けている、ということが本当に多い。
これじゃ結婚できないはずだ。
いや、結婚に憧れる気持ちはそもそもないのだが、結婚「しない」人でもあれば、結婚「できない」人でもあるんだな、私は。
なるべくしてなった、今の人生という感じ。
東京は便利だし、周りの人は優しいし、これはこれでなんとかなってきてしまったのがよくない。
自分のために自分の身の回りのことがちゃんとできていないまま大人になってしまったから、自分で決めることが本当に苦手なのだ。
今までそれは、情緒だけかと思っていた。楽しいとか嬉しいとか、これがやりたいとか、そういう気持ちだけ、自分は発達が遅れているんだと思っていた。
だが、生活力も同じだったんだな。
まあ、今気づけてよかったよ。
さて、冒頭のクレジットカードの契約。
何日もかけていろいろと調べた。
付帯する特典は自分の生活に見合ったサイズ感のものか、年会費に対して受けられる特典はプラスになっているか、解約に伴ってほかに必要な手続きや違約金は発生しないか、など。
その結果、やはり解約しよう、という結論になり、勇気を出してコールセンターに電話した。これも「生活」を始める第一歩だと自分を鼓舞して。
コールセンターはつながりづらく、待っている間、対応してくれた携帯電話ショップの人の顔が頭に浮かんだ。
彼は私の契約1件で営業成績がプラスになったんだろうか、そして解約することで彼にマイナスはついてしまうんだろうか、ああ申し訳ない。
オペレーターにつながると、あっさりと解約を受け入れてくれた。
このお電話のあとカードは使用できなくなりますので、ハサミを入れておいてください、とだけ伝えられた。
ああ、そんなもんですか。
営業、マーケティング等の部署を経て、2013年に女性向けアダルトサイト「GIRL’S CH」を立ち上げ。以来、GIRL’S CHの現場リーダーとして、サイト運営・企画・広報に携わる。
現在は新規事業の立ち上げを担当。