「エリックサウス」仕掛け人、稲田俊輔を形作った “おいしいもの”をめぐるエッセイ集

「昔から昭和の食のエッセイ本がとても好きでよく読んでいた」という稲田さん。読者から“東海林さだおを彷彿させる”との感想を寄せられることも

 これまで、食以外にハマったものは

「飲食で食っていこうと考える前は、音楽で食っていけないかと思っていた時代が長くありました。料理にしても何にしても基本的に凝り性なので、中高時代にハマっただけでは終わらず、その後もずっとダラダラやっていまして。音楽で一生食っていくのは無理だけど、よく引退したミュージシャンが飲み屋をやっているという話があるじゃないですか? 自分がもし音楽である程度上手くいったとしても一生は無理なので、どこかで諦めて飲み屋でもやるか、飲み屋をやるなら料理も出せないとと考えたことも、不純ですが料理に真剣に取り組んだ動機のひとつでもあります」

 コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食店ですが、どのように過ごされましたか?

「緊急事態宣言以降、本気で通信販売に取り組み、売り上げが20倍くらいになりました。テイクアウトやデリバリーもやりましたし、ディナーコースがメインの店では15時からコースメニューを提供しました。リモートワークで意外と時間の融通が利く方がいらしたのか、思ったより利用していただきました。お一人様も増えて、一人で昼間から優雅にワイングラスを傾けながら食事されている方が点在する風景を見ると、ものすごく幸せな気分になりましたね」

 今、気になる食べ物は?

「ひとつは中東の地方料理です。ケバブやトルコ料理など、外食として完成されているものには日本でも出会えますが、いろいろ調べていくと決してレストランには出てこない土着的な家庭料理に驚くほど広さや深さがあって。なかなか日本で出会うことができないので、いつかいろいろ食べてみたいなと夢見ています。 日本でいうと、僕は基本的に西日本の人間なので、昔ながらの東京の味はタイ料理と同じくらいの距離感があって。食材や調味料は知っているものなのに、できあがった料理はエスニックのような感覚です。東日本はほぼ東京しか知らないので、北関東や東北に行くと、実はエスニックとして楽しいのではないかと思っています。まずは落ち着いたら、北関東と千葉から攻めていきたいですね」

 最後に、これから本を読む方にメッセージをお願いします。

「皆さんのよく知っている食べ物ばかり出てくるので、自分にとってその食べ物はどういうものなんだろうというふうに、ぜひ自分に置き換えて想像を巡らせてほしいです。その想像と僕の書いたものが共通しているところと、全く違っているところを教えてもらえるととてもうれしいです」

(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)

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