芳根京子 圧巻の演技力の根幹にある「自信の無さ」とは。最新主演作『Arc アーク』で容姿を変えずに100歳以上までを演じ切る

 

芳根京子、キャリア史上最難関の役どころ?

 かつてないほど魅力的な、同時に難しい作品と役どころ。実は当初、この役を断ろうと考えていたという。

「すごく面白い作品だと思ったのですが、脚本を読めば読むほど、自分が感じたこの面白さをさらにふくらませて演じることができるのかと考えると怖くなってしまったんです。今の自分にはまだ難しい役なのではないか、自分にもう少し人間としての厚みがないとこの作品を成立させることができないのではないかと思い、石川監督に“私には難しい気がします”とお返事させていただきました。監督は、以前にドラマ『イノセント・デイズ』でご一緒させていただいたとき、私に良い印象を持ってくださっていたことに対しても“実際はそんなことありません、石川監督の印象とは全然違うと思います”とお伝えしたほどでした」

 近年『累 −かさね−』『ファーストラヴ』と難役をこなし演技力の高さを証明してきた芳根であっても、若いままの容姿で19歳から100歳近くまでを演じなければならないリナは、難役中の難役だった。

「実はそのころ、私は芝居への向き合い方に少し自信を無くしていた時期でもありました。とくに何かきっかけがあるわけじゃなく、だからこそ難しかったんだと思います。大きな失敗をしていればもっと自分なりに答えを出しやすかっただろうけど、積み重ねの自信の無さとでもいうか…。でもお芝居が一番好きだから続けてきたんですが…。とにかく、自信がなかったんですよね」

 しかし石川監督は絶対の自信を持ってリナ役に芳根を熱望していた。

「実際に石川監督とお会いするとなったとき、監督のほうから断られたらいいなと思っていたんです。“久しぶりに会ったら今の芳根京子はイメージと違っていた”と言われてもいいというくらいの気持ちでした。でも石川監督は、私のそういう気持ちに真剣に向き合ってくださって、不安定な今の私が演じるリナを見たいと言ってくださった。その時の私をすべて受け止めてくださったんです。すごく私を信頼していると伝えてくださって、石川監督が考える一番のキャスト、スタッフを集めて支えますと仰ってくださいました。これはやらないと本当にもったいないと思うところまで、私の気持ちを持って行ってくださった石川監督の存在が、本作に挑もうと思った一番の理由だと思います」

 石川監督に背中を押され、リナ役を演じ切った芳根。自信は復活した?

「正直、今も自信はないんです(笑)。というか、ずっとそうなんです。朝ドラ(NHK「連続テレビ小説 べっぴんさん」)が終わったとき、演出家さんから“京子ちゃんはもっと自信を持っていいよ”と言っていただいたりもしました。今考えてみてもやっぱり無いんですよね…もちろん、この作品で経験値は爆上がりした感覚はあるんですけど(笑)。ただ私の場合、自信を持たない頑張り方が合ってるのかもしれないな、とも思います。それに年々、やってみれば人間、意外と体はついてくるという自信は芽生えてきたかなと思います」

 16歳でスカウトされたことが芸能界入りのきっかけに。

「それまで、自分がやりたいことを言い出せない、親に今日食べたいものを言うこともできないくらい内気な子供だったんです。きっかけはスカウトでしたが、それでもこの仕事をやるかどうかは自分で決めたことなので、この世界に入ったことが人生で初めての、今のところ最大の選択と言っていいと思います。自分も親も、ここまで続くとは思っていませんでしたが(笑)。でも作品に参加するたびにお芝居の楽しさを知り、今では作品のたびに、そのときの自分にできるすべてを出し切りたいと思っています」