片桐仁が“美術館で拍手する”理由とは?
俳優にして現代美術家ならではの視点で伝える「美術館の尊さ」
「美術館=劇場」という、他にはないアプローチで日本各地の美術館を紹介する新たな試みで送るアート番組『わたしの芸術劇場』が現在放送中(TOKYO MX)。ナビゲーターを務めるのは、美大出身で、粘土作品を創作する現代アーティストでもある俳優・片桐仁。ユニークな番組作りの裏側や、その“美術館愛”を語る!
美術館は劇場だ!? 片桐仁が“美術館で拍手”する理由とは
「“美術館を劇場のように見せる”という番組コンセプトを聞いたときは、何を言っているのかさっぱり分からなかったんですが(笑)、美術館をめぐる番組に携わることは念願だったので。それまでも何度か美術館に行く番組はやっていたのですが、レギュラー番組をやれたらいいなと思っていたのでうれしかったですね」と、『わたしの芸術劇場』ナビゲーターを務める片桐仁。
同番組は、美術館を“アートを体験できる劇場”としてとらえ、その魅力を再発見する新たな試みのアート番組。毎回、ナビゲーターの片桐がさまざまな美術館を訪れ、まるで舞台を楽しむようにそれぞれの美術館を堪能していく。
多摩美術大学出身で、自身も現代アーティストとして作品を発表している片桐にとって、番組ロケで楽しみにしていることは?
「いろいろな美術館のキュレーター(学芸員)さんに直接お話を伺えるというのが楽しくて。キュレーターの方のお話を聞くと、なぜこういう展覧会のテーマにしたか、なぜこの作家に焦点を当てたか、なぜこういう構成にしたか、この順番で作品を並べているかといったことまで、その背景にある思いを知ることができる。そういう思いを知っていくと、美術館の意義というか、尊さみたいなものを実感するんです」
美術ファンはもちろん、普段あまり美術館に行かない人にも美術館に行ってみたいと思わせてくれる、体感型の番組作りがポイント。
「全部は理解しなくていいけど、背景を知ると、より楽しみ方が広がると思うんです。ただそれを言葉にして理解してもらおうというより、自分なりに感じてもらいたいと思っていて。リラックスして自由に楽しんでもらえるよう、リアクションを大きくしたり、僕なりに工夫しています」
番組の最後に片桐が、舞台を見た後のスタンディングオベーションのように高らかに拍手喝さいを送るのも片桐のアイデア?
「決して僕ではないです(笑)。スタッフから言われて、最初は無言で拍手していたんですが、ちょっと意味が分からないので今日の感想を言って拍手を贈るというかたちになりました。間違いなく視聴者の皆さんにナニコレ?って思われてるんでしょうね…もう自分の中でも違和感がなくなってきたので、これからも続けますけど。まあ、僕の舞台俳優業と美術館というテーマを結びつけるための制作側の苦肉の策だったんでしょうね(笑)」
実際の美術館で拍手はできないけれど、素晴らしい作品と出会った感動は、どんどんあらわにしていいはず。美術館には、いろいろな驚きや発見が無数にあるのだから。
「ミュージアムショップも面白いですよ。番組でも毎回、ミュージアムショップを紹介するコーナーを作ったのですが、ミュージアムショップだと美術館にあまり行かないという人にも面白さが伝わりやすいんじゃないかな。美術館のショップって“ガラパゴス”なんです。なぜこんなものをグッズにした?と思うような、他ではあまり見ないようなものが必ずある。ほぼ毎回、面白いものを見つけては買ってしまうんですけど、箱根のポーラ美術館(第4回放送)のミュージアムショップでは2万円ほど使いましたね(笑)」
同じく“今日の1枚”を選ぶ最後のコーナーも、片桐視点の面白さが現れている部分。
「あれは実は、そんなに考えて選んでいるわけではないんです。だからポーラ美術館のときはモネやルノアールを主に見ていたのに、カンディンスキーを選んだり(笑)。カンディンスキーのその作品は半抽象的な作品だったんですけど、印象派の作品たちと一緒に見る中で、なんとなくつながりがあるような気がして。見終わって、ふと心に浮かんだ1枚を選んでいる感じですね。あとは、ツッコミがいのある絵を選ぶこともあります(笑)。でも、それでいいんじゃないかと思うんです。この番組を通して、自由に自分の好きな作品を見つける楽しみを、感じていただければうれしいです」
自由に楽しみつつも、美術鑑賞の際に決めている“マイルール”などは?
「音声ガイドは2周目で使う。これはぜひ、おすすめしたいです。1周目はまず自分の視点で作品をとらえ、2周目に音声ガイドで背景などを知れば、より作品を楽しめると思います。あと、今はコロナなので予約制で人数制限されていますが、企画展が混雑していたら空いている時間にまた来たり、その日は常設展を見たりしています。常設展もその美術館の特色がよく出ているのでおすすめなんですよ」