9秒95・山縣亮太【アフロスポーツ プロの瞬撮】

 スポーツ専門フォトグラファーチーム『アフロスポーツ』のプロカメラマンが撮影した一瞬の世界を、本人が解説、紹介するコラム「アフロスポーツの『フォトインパクト』」。他では見られないスポーツの一面をお届けします。

撮影/文章:森田直樹 (2021年6月6日 布勢スプリント 男子 100m 決勝)

初めて9秒台の走りを撮影した。
布勢スプリント、男子100mの決勝。
山縣亮太選手が日本新記録9秒95で優勝した。

決勝前、私はとても緊張していた。
予選で10秒01と好調だった山縣選手、多田選手。
9秒98の記録を持つ小池選手。ケンブリッジ飛鳥選手もいる。誰が優勝するのか正直わからなかった。
ゴール前にリモートカメラは設置していないので自分の持つカメラで撮影できなければ写真が残らない。

それでも冷静に撮影できたのは陸上専門のカメラマンと交わした会話でこんな言葉があったからだ。
「山縣くんなら9秒台を出してくれる。彼ならやってくれる」

レースはスタートし先行したのは多田選手。カメラを多田選手に向ける。
中盤に差し掛かった頃、山縣選手が追い上げてきたと場内放送が入る。
山縣選手、多田選手、どちらが勝つかわからない。

先ほどの言葉を思い出す。
言葉を、そして山縣選手を信じカメラを向ける。
そのままフィニッシュまでひたすらシャッターを切った。
客席からオーという声が上がる。
ランニングタイマーは9秒97。山縣選手は走り抜けながら小さくガッツポーズをした。

そのまま正式タイムを待つ。
表示されたタイムは9秒95。喜びを爆発させる山縣選手。
私は急いでフィニッシュタイマーの横に移動する。
日本新記録との記念撮影。最初に声をかけたのが先ほどのカメラマンさんだった。

「山縣くん!おめでとう!」

その声に反応し、息を切らしながらも笑顔を向ける山縣選手はとてもかっこよかった。

100mに懸ける選手とカメラマンの思いを知り、陸上競技の面白さを再認識するレースになった。

撮影/文章:森田直樹 (2021年6月6日 布勢スプリント 男子 100m 決勝)

■カメラマンプロフィル
撮影:森田直樹
1993年、奈良県生まれ。2014年、ビジュアルアーツ専門学校・大阪卒業後アフロに入社。
4年間のスタジオアシスタントを経て2018年よりアフロスポーツ所属。
スポーツ選手の心情を追い、選手たちの努力、成長や挫折、感動を写真で表現することを目指す。
スポーツ撮影を中心にポートレイトなどジャンルを問わず活動中。

アフロスポーツ

1997年、現代表フォトグラファーである青木紘二のもと「クリエイティブなフォトグラファーチーム」をコンセプトに結成。1998年長野オリンピックでは大会組織委員会のオフィシャルフォトチーム、以降もJOC公式記録の撮影を担当。
各ジャンルに特化した個性的なスポーツフォトグラファーが在籍し、国内外、数々の競技を撮影。放送局や出版社・WEBなど多くの報道媒体にクオリティの高い写真を提供し、スポーツ報道、写真文化の発展に貢献している。

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