黒木香役・森田望智、山田孝之とのラブシーンは「幸せ」その言葉が示す役者としての揺るぎない覚悟

森田望智(撮影・蔦野裕 ヘアメイク:内田香織 スタイリスト:新崎みのり)

シーズン1の痛快な狂乱を超える、怒とうの転落劇!

 村西を演じる山田孝之を筆頭に『全裸監督』旋風を生んだ豪華キャスト、スタッフが“伝説”の完結を描くため再集結。

「キャストの皆さんや、総監督の武正晴さんをはじめとするスタッフの皆さんも、シーズン1からのメンバーが多くて、チームとしての距離感や空気感も出来上がっていたので、私もとても安心して撮影に入ることができました。しかも今回は、村西軍団の中にいる状態でスタートしたので、シーズン1のときより、キャストの皆さんとお話する機会も増えてうれしかったです」

 シーズン2第1話には、黒木香と村西とのベッドシーン が。シーズン1から1年以上を経ての体当たり演技は、改めて大変だったのでは?

「実は今回、あのシーンは最後に撮影したんです。つらいシーンの撮影を乗り越えてだったので、逆にとても幸せでした。普段は物語の流れ通りに撮影するほうが演じやすいのですが、このときは最後に幸せなシーンを撮影できたので、順撮りじゃなくて良かったということもあるんだな、と思いました(笑)。でも、初日の撮影だったとしても、抵抗はなかったと思います。私にとって、物語に必要な場面である以上、普通のお芝居と何も変わりません。それは演じるうえでまったく重要なことではないとシーズン1で気づくことができました。だから今回も自分のなかで、その部分を特別にとらえることはありませんでした」

 まさに、全身全霊で“黒木香”を生きた彼女ならではの言葉。身も心も裸になり、幸せそうに寄り添う村西と香の2人の姿が、この後に続く劇的な展開をよりいっそうエモーショナルに引き立てる。何しろシーズン2で描かれるのは、頂点に立った村西の転落なのだ。

「私も率直に言って、今回はかなり雰囲気が違うなと感じました。シーズン1はエンターテインメントの中に人間ドラマがあるという感じでしたが、シーズン2は面白おかしいというより、村西さんたちの劇的な転落が描かれ、どんどん登場人物に感情移入して心が揺さぶられてしまうんです」

 村西を演じた山田の演技もまた、シーズン1とは違う“狂気”をはらむ。

「第4話で、黒木さんの撮影のときに村西監督が相手役をやらないと言い出して2人が言い合いになる場面があるのですが、その場面で山田さんはご自分でセリフをすごく足されたんです。というのも、このままでは黒木さんが村西さんから離れることができない、もっときつい言葉をぶつけないと黒木さんが出ていけないだろうと、相手役のことまで考えてお芝居をしてくださったんです。 私は“黒木香”としてそこにいればいいだけでしたが、私の感情を引き出さなければならなかった山田さんのほうは大変だったと思います。山田さんは前日にあのシーンに足すセリフを考えていらっしゃって、それを翌日に、ほとんど寝る間もないようなハードなスケジュールで覚えていらっしゃるということにも驚きました」

 森田の熱演を引き出しただけに留まらず。山田の存在なくして、この作品は生まれなかった。

「現場では、何度もそう感じることがありました。山田さんは、俳優としてだけではなく全体を俯瞰して見ていらっしゃるというか、監督のような視点を持っている方で、そんな山田さんの熱量が皆に影響していく現場でした。といっても私は、山田さんとそんなに深い話をしていたわけではなく、いつも“調子どうですか?”と声をかけていただいたくらいですけど(笑)」

 果たして、村西と出会い人生を大きく変えた黒木にとって、村西とおるとは何だったのか。

「 物語で私が黒木さんを演じる上で感じていたのは、村西さんに感化されたというより、もともとあったものの扉を村西さんに開けてもらったという感覚でした。村西さんによって“黒木香”という人物が変わったのではなく、彼女にとって村西さんは、もともと心の中で思い描いていたことを表に出すきっかけをくれた大切な人だったんじゃないかと思います。彼女は本当に村西さんが好きで、だからずっと支えたいと思い、支えようとするんですけど結局、新たな道を見つけて進んでいくんです」

 村西とおるの劇的な半生に圧倒されつつ、自分を進化させていく黒木の姿も心に残る。そんな1人の女性を演じ切った森田にとって『全裸監督』とは。

「役者として一番大事な基本を教えてくれた作品です。役作りをするときというのは、自分ではない他の人を演じるために自分の要素を排除しなくてはいけないように思いがちですけど、その人物を解釈するとき、そこには必ず自分の視点があるわけで、結局、自分が投影されるものなんだと思うんです。それはつまり、それまでの自分の生き方や経験が反映されるんだということが、すごくよく分かった現場でした。だからこそ、役作りをするうえでも自分がどう生きてきたかが大事なんだと、日常を大切にきちんと生きなければと、本作を経験して改めて思いました」

 そんな濃厚な生き方を体現してきた魅力的な役者陣とスタッフが集結した、まさに伝説的作品。

「キャストの皆さん全員のお芝居をとにかく見てほしいです。すべてさらけ出すように、その人物を生きる姿を見ていただきたいです。ここまで激しい内容のドラマもそうそうないと思いますし、それを見事に体現したこんな芝居も、なかなか他では見られないと思います」

(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)