顔出しNGの漫画家・松浦だるまと匿名デビューのセクシー女優・夏目響が異色対談

漫画家の松浦だるま。現在連載中の「太陽と月の鋼」の第3集が8月30日に発売される

松浦「美醜というテーマを扱うのは遅すぎたかな」

 ――セクシー女優と漫画家。それぞれの立場で顔という言葉の持つ意味、美醜に対する考え方は多分違う。そもそも「美しさ」というのも基準があいまいで抽象的な概念。例えば「ルッキズム」という言葉があるが、顔で人を評価するにしても基準って? あいまいで不思議なものを含んでいながら「美しさ」を求められることについてどう思いますか?

 夏目「セクシー女優になってから日が浅いので、私なりの考え方なんですけど、好みってさまざまなので、確立された美ってないんじゃないでしょうか。今の私の仕事でいえば、メーカーさんや監督さん、プロデューサーさんの作品性、監督さんと女優さんの性的な合致にもよると思うんです。だから何を美しいと思うかは、多分グループによって違うんじゃないかって思います」

 ――ではやはりあいまいなもの?

 夏目「みんな自分のことって気になりますよね。でも今は私たちのような仕事だけじゃなく、アイドルさんでも、一般の女性でも男性でもなんですが、誰がどこを整形したといった情報もネットなどで流れていて、周りが他人を評価しすぎている。これはすごく良くない循環になっていると思います。誰もが認める“美しい”というものは当然あると思うんですが、それ以外にもそれぞれが思う“美しさ”というのはあるので、他人の容姿のことをよく口にされる方の話を聞いていると“人のことを言える人なのかな?”というのはありますよね」

 松浦「ネットがすごく窮屈にしているところってありますよね」

 夏目「すごくありますね」

 松浦「もちろん、いいところもあるんですけど。ネットって、例えばSNSですが、ちゃんと人間として接してくれる人もいれば、そうではなくて、これはツイッターのフォロワーの方の受け売りなんですが、テレビを見ていて画面に向かって言う感覚でわざわざ本人に言ってくる人がいる。

 昔、2ちゃんねるなんかでは匿名でそういうことを言っていて、それも問題が無くは無いんですが、まだ本人には届かなかったりしてダメージになりにくかったんです。でも今は直接言える。これは怖いですよね。だから夏目さんのような見られる仕事の方はネットがあることで評価がダイレクトに来てしまうのは仕事以外でも気を使うことが多そうで、自分の見た目について考えすぎてしまうのではないかと勝手に想像してしまいます。

 これは私の作品に限ったことではないんですが、漫画を実写化する時って、演じてくださる俳優さんが決まった時に、読者それぞれのイメージがあるので良かったと思ってくださる方とそうでない方もいる。そういった時に役者さんの容姿を揶揄するような人の言葉がネット上で見えてしまったりすると、関係ない私でさえちょっと憤りを感じてしまうこともあるんだから、本人に向けられた刃ってどれくらい深く刺さるのだろうって考えたことがあります。

 なので累を始めたときは、この美醜というテーマを扱うのは遅すぎたかなと思っていました。それはルッキズムが増幅している最中でいまだに思っています。うまくは言えないんですけど…」

 夏目「累を連載されていた時より、今のほうが確実に自分に対しても他人に関しても見た目の価値観というか窮屈さは上がっていますよね」

 松浦「そうなんです。累は、外から言ってくる人に対してはそこまで描かれていないというか、あれは自分でどう思うか、という話に重点を置いて描いているので、あまり世の中のためにはならないんですけど。だからこそ、もっと美醜を扱った作品は今後も出るんだろうなとは思います」

 ――松浦さんはこういった取材では顔出しNG。その理由は?

 松浦「単に恥ずかしいというのもありました。そこまで気にされないかもしれないんですけど累という作品は、美しさも説得力をもって描かれなくてはならないという部分があったので、そういう作品であるからこそ自分の顔はノイズになるんだろうなとは思いました。あと、デビューしてそんなに経っていないころに、ベテランの女性の先生に“顔は出さないつもりです”と話したとき、“そのほうがいい”と言われて、何かそこに経験上なのか実感がこもっていたんです。女性の漫画家さんって昔からそんなに顔は出さないじゃないですか。やはりなにか理由はあるんでしょうね」

 ――とはいえ、美しさを追求することに関しては否定されることはないですよね。

 夏目「私自身は時々、スキンケアとかはいろいろ調べたりします。ホームスキンケアでは補えないきれない部分、例えば歯のホワイトニングやコンプレックスのシミ、そばかすの美肌治療など、より良い状態にするために時々専門の先生に相談もしています」

 ――それはこの仕事をする前から? 最近の若い女性は周りも含めてそういう傾向がありますか?

 夏目「全体かと言えばそうではないと思うんです。一部の女性たちの中で盛り上がっていることではあるかなと思います。人それぞれいる場所にもよって、自分の見た目を客観的に評価されやすい環境だったり、そうじゃなかったりというのはあると思うんですが、そういうことによると思います。私はたまたま見た目を気にするような場所にいたので。今もそうなんですけど。だから気は使っています。食事以外は(笑)。ごはんが大好きなので。本当はもう少しスリムになるのが理想なんですけど。でもその分、トレーニングもしています」

 ――きれいな人でも悩みがあるというのは今のようなことですね。

 松浦「美しくなりたいとか、美意識自体は罪なことでもなんでもなくて、いいことですよね。それを強制されたり追い込みすぎたときに悪になっていく。薬とかも同じなんですけど。そんなにシンプルな言葉にはできないんですが。時勢にもよりますので」

 ――一時、ミスコンに批判が高まって、廃止されたものもありました。その半面、なんらかのチャンスをつかむために出場する人もいました。あの問題はどうみていました?

 夏目「もちろんチャンスにもなりますよね。それで“元ミス●●”という肩書もできて箔も付く。うまく使えば自分の力にもなるけど、人前に出るからずっと残るわけだし“あの子のほうがかわいい”とか客観的に人に言われる機会も増えるんですよね。…うーん。難しいな…。難しいです。すいません」

 ――覚悟を持って出る分にはいいということでしょうか?

 松浦「誰も悲しまないんだったら、別に楽しんでもいいんじゃないかなって思うんです。出る人が攻撃されたり、傷つくことがあるなら別ですけど。ただ、評価基準については、審査員が何を基準に美しいと決めるかは、慎重になったほうがいい気がしています。そこに政治的な正しさがあるか。いわゆるポリティカルコレクトネスですけど、ポリコレという言葉も昔と今で意味合いが違ってきています。価値基準が更新されてきていないとまずいだろうなというのはありますが、そういうイベントについては楽しいならいいんじゃないかなとも思います」

 ――「名前」と「顔」というのは人を認知するときの最も大きな要因だと思うんですが、夏目さんは「名前がまだない。」という匿名でのデビューでした。松浦さんは「顔出しNG」。ひとつ欠けさせているところに共通点を感じました。夏目さんについては特に名前がないということは人を覚えるにあたっての顔に対する比重が高まるということになります。

 夏目「今気づきました。そういえば、名前がないなら、印象は顔になるんだなって(笑)。1年経って、今気づきました(笑)。そう見られていたのか、って」

 松浦「なるほど、ですね」

夏目「死ぬまで大好きだと思います」

 夏目「今、連載中の作品はまだ続いていくと思うんですが、完結した累に関しては作っていただいてありがとうございます。多分、死ぬまで大好きだと思います」

 松浦「興味を持つかどうかは読まれる方の才能とか感受性がめちゃくちゃ関係していると思うので、読んでいただいたこともありがたいですし、感想を持って発信していただけたことも、私自身、新鮮で、うれしいというか、面白かったです。作品を投げて、帰ってくるまでが作品という思いもありますので、本当にありがとうございます」

 夏目「累自身が成り上がっていく話としてもとても好きなんです。周りの菊さんとか、支えていた男性とか。普通に生きるのが難しい人って、見えていないだけでたくさんいるから、そういう意味でも、誰でもがこの作品の中のキャラクターなんじゃないかなって思います」

 松浦「夏目さんは本を出す予定はないんですか?」

 夏目「ええーと、なんのですか?」

 松浦「小説とか。本当に魅力的な文章を書かれているので、その時は教えてください。インスタとかに写真もアップされているじゃないですか。その写真のたたずまいも文章も一貫して、共通する芯の部分を感じるので。そういう方がいろいろな表現をされていくことが、私としてはめちゃくちゃ面白い事なので。友達にもいるんですが、主婦をやりながら画家もやって、今度発表する作品は絵ではなくて、インスタレーションなのかな。全然違うことをやってもその人の持っているものって絶対に出るんです。そういうものを見たいと思っているので、今後の夏目さんの活動を気持ち悪い目で見ています(笑)。体に気を付けて頑張ってください」

 夏目「ありがとうございます」

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