「子どものための玩具づくりを未来の子どもの“負荷”としないために」志田典道(株式会社トラーナ 代表取締役)
大学在学中に起業し事業を持ったまま就職というユニークなパラレルキャリアからスタートした志田典道さん。おもちゃ業界では画期的だった“おもちゃのサブスク”サービスを立ち上げた経緯、そして業界に新たな風を起こした原動力とは。
日本のおもちゃの廃棄量は年間6万トン!※ SDGsで注目高まる玩具のサブスク
「就職活動で面接した際、とくに聞かれなかったので在学中に起業したことは言ってなかったんです。入社後、源泉徴収のときに人事から“アルバイトでもしてるの?”と聞かれ“いえ、会社の取締役をしてます”と。 “こんなケースは初めて”と言われましたが(笑)、了承を得られたのでしばらくセキュリティソフト開発会社のエンジニアと経営者というパラレルワークを続けていました」とユニークなキャリアの始まりを振り返る志田さん。
「在学中に同級生と起業した理由は“この仲間と何かするなら今しかできない”と思ったからです。何がしたいというより、とにかく今何かに挑戦したいという気持ちが強かったですね」
その後、学生時代に立ち上げた事業は譲渡。エンジニア職も転職しさまざまな環境で経験を重ねた。
「台湾企業の日本法人立ち上げに携わったり、外資系でカントリーマネジャーを目指して出世のハードルを感じたり、いくつかの企業を経験するなかで、また事業を立ち上げようという思いは強くなっていました」
そんなとき目を止めたのが“おもちゃ”だった。
「当時、1歳になる2人目の子どものおもちゃを買おうと量販店に行き、メインの棚にはキャラクターもののおもちゃばかりが並んでいるのを見て、もっと選択肢があってもいいのに…と。端のほうにはちゃんと知育玩具も売っていて、気にはなるものの子どもが喜ぶのか使ってみないと分からず、それなりに高いので結局その時は買わなかったのですが、後から知育玩具について調べていくうちに、大量に廃棄されているおもちゃの廃棄問題の現状を知りました。おもちゃの買い取りや再利用システムも見当たらず、子ども向けのものを作るのに、それが未来の世代に負荷となって返ってくるのはおかしいのでは…と考えるようになりました。それで、当時定着してきた映像配信サービスを見て、おもちゃもこんなふうに使いたいときにおすすめのものが手軽に楽しめたらいいのに、と思ったんです」
2015年、玩具のサブスクレンタルサービス「トイサブ!」をスタート。常に子どもの成長に合わせて定額でおもちゃ・知育玩具をレンタル・返却できる、おもちゃ業界では画期的なサービス。
「業界では新業態とあって卸しさんやメーカーさんに理解してもらうまでにはしばらく時間がかかりました。それでも、2019年に“サブスク大賞”を受賞し、時代もサブスクが認知されるようになるにつれ、おもちゃ業界の空気も変わってきましたね。ユーザーにおいても、当初は“他人が使った玩具”にネガティブな反応を示す方も多かったのですが、当社の厳しいクリーニングやメンテナンス、製品チェック体制を評価いただいていることもあり、最近はそういう懸念も少なくなりました。逆に、SDGsの観点からも喜んで頂いたり、お子さんに“大事に使った玩具は、一度おもちゃ王国に帰って、また別の子のところに行くんだよと教えています”という声、一人ひとりに合わせておすすめされた玩具を通して自分の子どもについて新たな発見が得られたという声を聞いて、手軽で便利というメリットにとどまらない、もう少し大きな意義を見出していただけていることを大変うれしく思っています」
※1…京都市調査データを基にトラーナにて試算
株式会社トラーナが2015年11月から運営を開始した「トイサブ!」は、0歳3か月~満6歳の乳幼児向け知育玩具・おもちゃサブスクリプションレンタルサービス。同サービスでは最短2カ月ごとに乳幼児向け知育玩具・おもちゃ6点(4歳以上はおもちゃ5点)の交換が可能。申し込み時やおもちゃ返却時のアンケートをもとに、同社専属のプランナーが各家庭に最適なおもちゃを選定し、すくすく成長する乳幼児それぞれにぴったりなおもちゃを定期的に届けてくれる。
「幸せな親子時間を増やそうぜ」の合言葉と「お子様に携わるすべてのご家庭の方におもちゃを通して充実した時間を過ごしていただきたい」という代表・志田氏の思いをもとに誕生したこのサービスは、運営開始するやメディアでも話題を呼び、2021年6月時点で約9000名のユーザーが利用。おもちゃそのものを持続可能な経済発展の要素ととらえ、未来を過ごす子どもたちへより良い社会提供を目指す、画期的なサービスとなっている。
同社では2024年までに10万世帯の常時利用可能を目指すべく、今年5月末に過去最大の規模となる3つ目の拠点を千葉市に開設。
また、社内スタッフへの昇給制度など雇用体制にも重点を置き、自社開発中の社内管理システムにより、スタッフにとってさらに効率的で便利なオペレーションづくりを目指している。