映画の神様が撮った“映画の映画”『キネマの神様』は“映画の中の映画”だ!!【黒田勇樹のハイパーメディア映画鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 ただいま8月24日に開幕する舞台『ノーサスペンス・ノーホラー』が絶賛稽古中です。

 初めてお仕事する俳優さんばかり、かつ酷暑の中の稽古とあって、どんな感じになるかと思いきや、今回も座組に恵まれ、いい感じで稽古が進んでおります。

 五輪中から感染者数が増え始め、世の中が浮足立っている感じもしますが、僕たちはとにかくしっかり稽古をして、しっかり感染対策をして初日を迎えるだけだと思っています。

 ご興味がある方はぜひ。

 では今週も始めましょう。

 
黒田勇樹

 筆者が、映画監督を目指そうと思ったのは、まさにこの方、山田洋次監督の影響なのですが、その人が「松竹映画100周年記念」で作った“映画人を題材にした映画”。
 日頃から「“映画”で“映画”を扱うのは難しい」と、言っている僕ですが、まあ、もう山田監督は、89才にもなって未だバンバン毎年新作を公開しちゃうような「映画の神様」なので面白くないわけがない。

 セリフに「クラウドファンディング」とか出てきちゃうし、故志村けんさんの代役として登板された沢田研二さんとの関係値、追悼の意、コロナ社会への思い、名作映画たちへのリスペクト、「映画自体への愛」。

 それと、山田監督がずっと描き続けられている「家族愛」。
 全部、まぜこぜにしているのに、何一つ邪魔じゃなくて、ただ単純に「とんでもねーな!!」と、思いました。

 んで、じゃあ、そんな素敵な映画のどの部分を鑑賞記に書こうかと思うと、もう、普段800字から1200字におさめようとしているんですがきっと大学の卒業論文の文字数になっちゃうので、「僕だけが知っている山田監督の秘密」と、「ココを見て」を。

 山田監督は、電車に向かって「速い!」って怒ったり、夕陽に向かって「沈むな!」って命令したり、洋画の試写会でばったりお会いした時は「黒人は本当にあんなに声が低いのか?なにか加工をしているのか!?」と、居合わせた音響さんを問い詰めたり、僕が映画を撮ったと報告したら、寅さんの新作のポスターのデザインを打ち合わせに来ているスタッフさんたちを全員待たせて、ホワイトボードに書き出して「セミ男ってどういうことだ!」って、説明を求められたり「映画の明王」と言ってもいいようなパワフルな人なのですが、こっからが凄い。

「電車に向かって“速い”」

 ブっ飛んでるか、ふざけてるエピソードに聞こえるじゃないですか?

 でも、違うんです。

 その直後、スタッフさんたちが動き出し、制作さんたちは時刻表を見て「さっきのは特急で次は普通なのでもう少し遅いかもしれません」
 カメラマンさんは「あのセリフとあのセリフの間に電車が通ってて欲しいんだろ?だったら立ち位置を変えて、カメラのアングルを変えれば、ちょうどいい時間、電車が映るよ」
 夕陽の時も同じ。
 チーム全体が「ワガママ」ともとられかねない山田監督の要求を実現するために、動き出すんです。だって、全員が「この人の言う通りにした方が面白い」って知ってるから。

 真似して、撮影現場で木に向かって「高い!」って叫んだら、カメラマンさんが「演者を箱馬に乗せて、ローアングルから撮りましょう」と、提案してくれて作品の質がグっとあがった経験もあります。

 偉大な人の作り方は、やはり偉大。

 何が言いたいかというと、今回の「キネマの神様」。

“電車がいっぱい”出てきます。

 もう前半なんか、電車が「ゴオオォォォォ!」って走り抜ける音が、オーケストラの様に気持ちのいいタイミングで画に入ってきます。

 BGMの乗せづらい日常シーンでの、画と間をもたせるテクニックなんでしょうが、そこには上記のようなチーム全体の努力と、監督から溢れ出る情緒(だって、まだ編集もしてないのに“どのくらいの長さ必要か”わかってんだぜ!? 化け物だぜ!? !? )

 本編面白すぎて気づかない方もいらっしゃると思ったので、今回はちょっとニッチなところを書いてみました。

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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23