「過去や未来の話をしても現在からは誰も逃げられない」 豊田利晃&窪塚洋介が『全員切腹』で問いかける、生き方の美学〈後編〉
窪塚「監督=映像と思われがちだけど、豊田さんは、“音と光の人”」
ややもすると社会派の監督と括られかねないですが、豊田さんの作品は煽動的でもなければ何かを説こうともしません。
豊田「それは全くないですね。映画は、映画なんで。映画ってやっぱり、監督の意見表明になってしまったら面白くないじゃないですか。作り手の気持ちとしては言うけれども。『全員切腹』も、メタファーにくるんだ物語を演じて一本の作品として見せているだけで、それを受け手がどう受け取るかだから。受け手にしたって日本国内に限っていないので。海外でも8月20日から日本以外の全世界でも上映されるし、そういった人たちにも伝わるものでないと。映画って、世界の広場だと思っているから」
窪塚「そこがすごいんだよな」
前作『破壊の日』ではオルトレ・ロスペッキオ国際映画祭2020(イタリア)で監督賞を受賞されていますが、どういった点が海外で評価されていると実感しますか?
豊田「海外では、“音のレベルが高い、日本人でここまでやるのか”と言われます。坂本龍一さんなどが手掛けている作品は別としても、“なかなか日本映画からいい音を聴けない”と」
窪塚「うんうん」
豊田「やっぱり、映画館で上映する素晴らしさって、音だと思うんです。それによって体感できること。今、作品の試写もスクリーナーでみんな見るようになっているけど、一切出さないようにしています。映画館で見ないと伝わらないんじゃないかなって。さらに、映写チェックの時に音をしっかり調整して重低音を仕掛けているので、いいところで劇場が振動するんですよ。この映画も切腹シーンで椅子が震えるんで」
窪塚「圧倒的に伝わるものが違いますよね。それから豊田さんの“爆音”って、デカい音の間にある無音こそが、何よりの爆音というのかな。そこにいろんなものを想像してしまって、“鳴ってる?” “あれ、鳴ってない? 今”みたいなのが、自分の気持ちをざわめかせたりもするし落ちつかせたりもするっていう。そういう意味では監督(という仕事)は映像の人って感じがするけど、豊田さんは両方で、“音と光の人”だなって、この作品で再確認できますね」