“全員、人間”純文学のようなストロングスタイルの映画『空白』に、震えてきた!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 緊急事態宣言が解除されるらしいですね。仕事柄、このニュースを一番気にしなきゃいけないんでしょうが、今週は自民党の総裁選とか小室圭さんの帰国とかふるさと納税返礼品のホタテ水着のニュースとかいろいろあって困ります。

 小室さん、こっそり人生相談に投稿してくれないかな〜と思っている今日この頃です。あ、菅さんも…。

 では今週も始めましょう。

黒田勇樹

 ケレン味という言葉をご存じでしょうか? 芸能界ではよく使われるのですが、大衆ウケを狙うとかハッタリをかますとか、デフォルメするとか、こう書くと、ちょっとマイナスな言葉に聞こえるかもしれませんが、エンタメ業界では「お客さんを楽しませる為に」“ケレン味”を大切にする作品も多くあります。

 んで、この映画『空白』、ケレン味、一切なし。

 豚骨ラーメンブームが来ても、家系が来てもつけめんが来ても油そばが来ても、“しなそば1本でやってます”ってラーメン屋さんみたいなオーラ。

 松坂桃李さん演じる若きスーパーの店長が“万引きをしたであろう少女”を、追いかけたところ、逃げ出した少女が、交通事故にあい亡くなってしまう、というところから始まるヘヴィなストーリー。しかも、1台目に跳ねられて反対車線に飛び出して、もう1台に轢かれるという痛ましい状況。

 最近の傾向だと、刑事が出てきて「誰が悪いのか」を探すのが王道なのかと思うんですが、そういうのは一切ない。

 本当に最近の映画でこういう“事件モノ”で、警察側にもマスコミ側にも“ネームド”、つまり「しっかりと名前を付けたキャラクター」を出さないの少ないんですよ。刑事かジャーナリストだしときゃ「謎解き」の描写がラクになるはずなのに。

 古田新太さん演じる少女の父親が主人公なんですが、この人が漁師でクチも悪いしモラハラとも取れる行動を公私共に繰り返していて、しかも父子家庭なので「ストレス発散の為に万引きをしたとしたら、理由絶対コイツだろ」ってところから始まるのに、娘の無念を晴らそうと「万引きはしていない。店長のワイセツ目的か、学校のイジメなんだ」と、黙々とスーパーと学校に通い続ける。

 凄いのが、登場人物が「全員、ちょっとダメでウザいところを持っている」。

 アウトレイジは「全員、悪人」でしたが、この映画は「全員、人間」。

 良い人なんだけど性欲強かったり、弱い立場に見えるけど前髪にメッシュ入ってたり……。

 一応、真実は示唆されるんですが、一切「誰が悪かったか」を結論付けずに、リアルすぎる人間模様と“古田新太の仁王立ち”だけで、これだけの傑作が作れるとは!

 僕は細田守さんの対抗馬として新海誠監督が出てきたときに「おお!競争が始まって、このジャンルはどんどん伸びるぞ!」と、思ったんですね。

 今回の吉田恵輔監督は、是枝監督の独壇場だったジャンルに飛び込んだ上に、この完成度。(筆者の個人的な分類です)

 まだまだ“邦画は面白くなるな”と、ズンとくる内容なのに、ワクワクも出来る、「競争を生む為にも大ヒットして欲しい」素晴らしい作品でした。

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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23