米国の急激なアジア・シフトにどう対応するか?【長島昭久のリアリズム】
ここ1‐2か月のバイデン政権によるアジア・シフト—より正確には「対中戦略シフト」—が風雲急を告げています。我が国の戦略を考える上でも、現状を正確に把握しなければならないと思い筆を執りました。
私たちの目に見える形でその戦略シフトが始まったのは、猛烈な批判にさらされた8月のアフガニスタン撤退です。あまりにも性急な米軍撤退(に伴う首都カブールの混乱ぶり)に、欧州はじめ国際社会のみならず米国内でも野党共和党や米軍関係者からも怒りの声が上がりました。しかし、この行動の目的は明確です。20年間に2兆ドルもの国費(1日300億円!)と約6500人に上る犠牲者(米兵約2500人、契約民間人約4000人)を出した途轍もない「重荷」を降ろして、アメリカの持てる国力を今世紀最大のライバルである中国との戦略的競争に振り向けよう、という一点に尽きるのです。
その後、突然発表されたのが、AUKUSです。豪州のAU、英国のUK、アメリカのUSをつなげた名称が表すように米英豪3か国による新たな安全保障協力です。そこでは、豪州とフランスとの間で進められていた通常駆動型の潜水艦建造計画が破棄され、米英の有する原子力潜水艦技術を豪州に供与することが発表されたのです。当然フランスは猛反発しましたが、後の祭りです。ずいぶん乱暴な進め方ではありますが、それくらい事態は切迫していると見るべきでしょう。
その動きと前後する形で、英国からは空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃部隊がインド洋を超えて南シナ海から西太平洋海域へやってきて、我が国海上自衛隊の軽空母「いせ」や米海軍の強襲揚陸艦「アメリカ」などと共同訓練を行いました。そこには、米海兵隊と英空軍のF-35Bと航空自衛隊のF-35Aという最新鋭戦闘機も参加しました。その後、日米英豪の海軍合同演習も行われました。
そして、9月いっぱいで退陣する菅義偉総理が訪米し、ワシントンにおいてQUADと呼ばれる日米豪印4か国の首脳会議が初めてリアルで行われたのです。QUADでは、インドの対外姿勢を慮って軍事面を強調することは避けつつも、4か国の経済、技術、気候変動などにおける幅広い協調と結束を確認する有意義な会議となりました。
これらの動きに通底する共通目標は、中国との戦略的競争を同盟国・同志国により優位に進めるための足場固めです。(そこに秘められた軍事的な意味合いについては稿を改めて論じます。)
新たに選出される総理総裁および新内閣は、このような我が国を取り巻く戦略環境の激しい変化を見据えつつ、国民の命と平和な暮らしを守るという崇高な使命を全うしていかねばなりません。
(衆議院議員 長島昭久)※本稿は、9/29自民党総裁選の前に書かれました。
自由民主党 衆議院議員6期・東京18区(武蔵野市・府中市・小金井市)。
1962年生まれ。慶應義塾大学で修士号(憲法学)、米ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号(国際関係論)取得。2003年に衆院選初当選。これまで防衛大臣政務官、総理大臣補佐官、防衛副大臣を歴任。2019年6月に自由民主党に入党。
日本スポーツ協会理事、日本スケート連盟会長。