本当に廻ってていいんですか? ミシュラン星獲得の「銀座おのでら」が表参道に廻転と立ちスタイル
カウンターに陣取り、座席のタブレットをフリックすると、「鮨 銀座おのでら」の手間を惜しまない本格江戸前鮨がずらり。レーンにも、まぐろ、金目、のどぐろ、エビ……と食欲をそそる札が流れる。
どのネタも推しだが、なかでもイチオシは、まぐろ。高級鮨店御用達のマグロ専門仲卸「やま幸」の本まぐろで、大トロ、中とろ、赤身、赤身漬け、鉄火細巻のラインアップだ。いずれも一貫ずつの提供で赤身は320円、大トロなら720円。安くはないが、口のなかに広がる油の優しい甘みと、赤シャリ、ネタのおいしさを最大限に引き出す目の前の職人たちの手仕事によるうまさに言葉が出なくなる。その味わいに対してコストパフォーマンス、リーズナブルという言葉の本来の意味に立ち戻る。
江戸前鮨のネタの代表格の煮穴子は自家製。開いた穴子の中骨から出汁をとった自家製のツメで、ふっくらと仕上げる。甘さも柔らかくて、口の中から消えても、その余韻を味わっていたくなる一貫だ。
舌が喜ぶのは間違いないが、目でも楽しめるのも、銀座おのでらの鮨の特長だ。オーバーな表現と言われそうだが、レーンを流れてくる姿が美しい。聞けば、通常に比べて、シャリを少なめにしているそうだ。
中には目を見開いて流れていくのを追ってしまうプレゼンテーションの一皿もある。カウンターの向こう側で職人たちが準備をしているところから好奇心がむくむくと湧いてくる。
口に入れればとろける有頭ボタン海老はコンパクトなお造りのようだし、雲丹に至っては懐石料理の一品。軍艦にしないのは海苔の味で雲丹本来のおいしさに気づけないこともあるからだそう。席に着いた瞬間から感じていた「果たして、この鮨を廻してしまっていいのだろうか」という思いを決定づけた。