睡眠医学のけん引者・西野精治×健康経営研究会理事・岡田邦夫 ロングインタビュー 労働者の健康は会社が守る! 健康と睡眠を経営から変革する
睡眠の改善は企業の事業黒字化と、従業員の幸福度向上を兼ねる
――西野先生においては、パンデミック以降オンラインでの睡眠セミナー需要も増えているそうですね。睡眠に関する意識が高まっている人も多いのでしょうか。
西野:世間的には、ワクチンの有効性が出てきて、コロナとの共生を考えるフェーズが来ています。しかし、生活様式の変化はまだこの先も予測できないと思います。そういう意味では、個々人にも臨機応変、フレキシブルな対応が求められている。その中で、睡眠という事項の重要性を意識する人の数は、パンデミックによる健康意識の向上とともに、増えているように感じます。
――ブレインスリープ社がスタートした健康経営サービスの中では、睡眠医学を重要視されていますよね。
西野:睡眠医学はまだ歴史が浅く、ごく最近まで重要視もされておらず、医学の研究の対象になっていなかった分野です。まだ分かっていないことも多いですが、最近はやっと世間的にも重要視されるようになってきました。しかし今日本では、諸外国と比べても睡眠に関して、不確かな情報が蔓延しているという実感があります。
睡眠はいろんな要因に影響を受けるので、多様な改善策が有効ではあります。でも、それだけで改善しない睡眠障害患者の数も多い。ビジネス指導のプログラムだけではミスリードを呼ぶ可能性があり、治療が必要な睡眠障害の人たちは睡眠専門医を受診してもらうという、スクリーニングが必要です。その上で正しい情報を伝えて、生活指導を行っていくための介入がしたい、というところで、今回「睡眠偏差値 for Biz」というサービスをスタートしました。 私自身もともと医者ですから、エビデンスを持って睡眠研究、臨床をしている専門家の助けを借りて、人々の健康寿命に関わる健康経営を、ビジネス主導でなく行っていきたいという思いがありました。
――健康経営においては、睡眠の重要性をどのようにお考えですか。
岡田:睡眠は日本における重要な社会問題ですよ。日本は労働時間の長さが、韓国に次いで世界2位なのに対し、睡眠時間の短さは世界1位。しかも、労働生産性は欧米の3分の2と言われています。時間を惜しんで働いているのに、1時間あたりの生産性が低いんです。 朝、通勤電車の中で、あくびや居眠りをしている人が多く、夜にやっと元気になって、残業をする。すると晩ごはんの時間が遅くなり、朝ごはんを抜く。その結果、昼ご飯を食べた時に急に血糖値が高まり、心筋梗塞のリスクが4倍になるんです。こんなサイクルで労働が行われていることを、無視していいわけがありません。
しかしパンデミックによる在宅勤務で、睡眠時間が普段より2時間多く確保できるようになっただけで、高血圧が一気に下がったという例もあります。薬を飲んで減塩をして、タバコを辞めても高血圧が下がらなかった人ですよ。日本では、睡眠の問題は多様に波及しています。働き方を変えることで、十分睡眠が取れる状況を作らなければならないということは健康経営の中でも主張していることではあります。
――今後、健康経営の中で睡眠はどのような立ち位置を取っていくと考えられますか。
岡田:睡眠もやっと、健康経営の調査票項目の中に入ってきましたし、睡眠障害や偏頭痛など見えない健康問題は今後重要視されていくでしょう。過重労働、長時間労働による睡眠不足が心筋梗塞、脳血管障害、メンタルヘルスに影響を及ぼしていることは事実です。
労働者は会社の資本ですから、そこに投資するのは当然のこと。そして従業員の睡眠意識にも投資価値があることを、企業や経営者がもっと知るべきです。労働時間を短くして、土日は休んで運動をする健康的なルーティンを作った時、10年後の会社が伸びるかどうかという社会的データも、今後注目してほしいですね。過去私が行った調査で、健康意識が高い経営者のいる中小企業の従業員に質問すると、従業員の健康意識が高く、逆に経営者の健康意識が低い企業では、従業員もそうだったというデータもあります。人生のうち、働いてる期間は長いですから。自身や従業員の健康を経営者がどう考えるかが、日本の幸福度を大きく変えるでしょう。