小さくてもふもふ!コケ愛好家・藤井久子さんに聞く身近な「コケめぐり」の魅力
街ではコケを見つけるのに熱中して人の敷地に入っていかないことと、あまりにうずくまって観察して怪しまれないように、自然の中でもコケに夢中なあまり他の植物などを踏んでいないか、コケや他の植物をみだりに採取しないなどに注意すれば誰でも楽しめるのが「コケめぐり」。
「本の中でも紹介した池上本門寺は、コケ好きな人にとっては聖地のような場所。身近な場所でも自然の多い公園、街角に比べて環境の変化が少ないお寺や神社、高尾山や御岳山などの山もいいですね。コケというのは生きたい場所がはっきりしていて、向いてない場所にはまったく生えません。木に生えるコケ、岩に生えるコケ、岩の中でも湿った場所が好きなコケ、日当たりがよくても大丈夫なコケなど棲み分けがあるので、山の中では環境の変化に富んだ場所がおすすめです。
田畑が多いところには畑を好むコケがいたり、北海道と鹿児島や沖縄では見られるコケも違ったりします。コケにも地域性があるんだなと思うと、木もそうだなと他の植物に目がいったり、岩や山の地質に目がいったり、コケ起点でいろいろなことに興味が広がると旅がもっと深まります」
改めてコケの魅力とは?
「まずその造形を楽しんで、どうしてこんなにきれいな色なんだとか、透けるように薄いんだろうとか、ガラス細工みたいなのに厳しい環境でも生えるんだなとか、とにかくコケ全体をじっくり観察しながら、感じたことを堪能してほしいですね。和名でこんな名前がついているのはどうしてだろうとか、葉っぱひとつとってもなぜこんな形をしているのかとか、すごく想像を広げてくれます。ハイゴケは這うんだなとか、ジャゴケは蛇の模様だとか、名前や生えている場所のことを想像しながら見ると、なるほどと思うことが多いんです。
種類を見分けたい場合は、まずは葉っぱを観察。さらに胞子が出ている時季を狙って胞子体(ほうしたい)を観察すると、さまざまな形や色があってすごく個性豊かです。図鑑とよく見比べると、葉がギザギザしているとかしていないとかで見分けられますし、コケは環境によって生える種類がだいたい決まっているので、環境全体を見ることも重要ですね。でも、正確な見分けは顕微鏡が必要になってきますので、最初からあまり気負わず、『○○ゴケ科の仲間』くらいわかるようになればじゅうぶん面白いと思いますよ。
コケの胞子は肉眼では分からないほど小さく、いろんな種類の胞子が浮遊しながら、気に入った場所に落ちてそれぞれ発芽します。同じような環境を好むコケが混ざり合って生えれば、群落がより密になって保水性も高まり、お互いに上手く生きていけるようです。1種類だと思って近づくと違うコケを発見し、さらにコケを土台に別の植物が芽吹いていたり、ダンゴムシが寄ってきたり。さまざまな生き物がコケをベースに小さな世界を築いていて、そういうのを見ているだけでけっこう時間が経つんです」
わざわざ旅行に行かなくても、身近な場所で楽しめるのが「コケめぐり」のいいところ。
「コロナ禍で遠出できない時は、近くにあるコケをゆっくり観察する時間が多かったですね。コケは気に入った場所以外ではすぐ枯れてしまうのですが、反対に気に入った場所では1~2年くらいすると群落としてまとまりができることもある。コケも生きている植物で、時間を追うごとにもふもふしていくものなので、たとえば近所でなじみのコケを見つけて、時々気にして見てみるとだんだん変化が見えてきます。すごく身近で小さな生き物なので、時間をかけてじっくり見てみてほしいです」