知っているようで知らないたばこの歴史を「たばこと塩の博物館」で聞いてみた

「たばこメディアウォール」には高度経済成長期のたばこ広告「今日も元気だ たばこがうまい」ポスターも

高度経済成長の終焉とたばこをめぐる環境変化

「戦局が悪化すると当然たばこの価格も上昇しますが、専売制という枠組みにより供給自体を止めない努力はされていましたし、戦後復興期には直接の税収になるため国の財政に影響を与えていた時期もあります。そうした中で、1946年に自由販売たばこ第1号として登場したのが『ピース』です。1952年には米デザイナーのレイモンド・ローウィに高額なデザイン料を支払ってデザインを依頼し、新たなデザインとなった『ピース』は当時大ヒットしました。そのデザインは現在まで受け継がれています」

 戦後、急速な高度経済成長を迎えて働き手が増え、喫煙する人も増えていった。「1985年頃まで、たばこの製造量はずっと右肩上がりの状態が続きました。新商品の開発やその魅力を伝えるためのパッケージや広告が盛んになり、当時の社会動向を取り入れるといったことが起こります。1960年発売の『ハイライト』は高度経済成長を語るうえで欠かせない商品ですし、1969年には海外製品を意識したチャコールフィルターの『セブンスター』、1977年には日本人の嗜好に合わせたたばこを作ろうと『マイルドセブン』、後の『メビウス』が登場しました」。高度経済成長が終焉すると、海外から国内たばこ市場の開放要請が強まるようになる。

 1985年、専売制度が廃止されて日本たばこ産業(現・JT)が誕生した。1987年には輸入たばこの関税が無税化され、国内でも外国たばこ企業との販売競争が起こるようになった。そして近年、健康志向の高まりを受けてたばこをめぐる環境は大きく変わりつつある。

「1987年に厚生労働省により『喫煙と健康問題に関する報告書』が取りまとめられ、2002年に千代田区で路上喫煙を禁じる『千代田区生活環境条例』が施行されました。たばこ業界でも喫煙マナーの向上に取り組むようになり、2000年代以降は製品ではなくマナーを啓発する広告が増えています。たばこ産業にかかわる人間として、たばこを吸う人と吸わない人の共存を目指すためにマナーを守っていただきながら、喫煙する環境をどう整えていくのかを考えつつ、加熱式たばこなどの新しい製品を開発しているのが現在といえます」

「人間社会には大なり小なりストレスがありますが、ストレスを抱えたら逃げる場所を作るべきで、その役割をたばこが果たしていた時代もありました。たばこに限らず、人が生きていくためには何らかの嗜好品が必要だと思います」と鎮目さん。長い歴史の中で育まれたたばこと人とのかかわりは、これからどのように変化していくのだろうか。