米政府が北京五輪の「外交的ボイコット」を表明。中国は「もともと呼んでない」

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 米ホワイトハウスは12月6日、中国による新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での民主派弾圧に対する抗議の意思表示として、来年2月の北京冬季五輪に首脳や政府使節団を送らない「外交的ボイコット」の実施を表明した。

 サキ大統領報道官が同日の記者会見で明らかにした。会見では「新疆ウイグル自治区での継続的なジェノサイド(大量虐殺)と人間性に対する犯罪、その他の人権侵害」と述べた上で「人権のために立ち上がるのは米国人のDNAだ。われわれには人権尊重を促進する責務がある」と述べた。

 選手団は参加するとしているが、米国内では「外交的ボイコットでは不十分」(ポンペオ前国務長官)と追加措置を求める声が広がりをみせている。前駐日大使のハガティ上院議員(共和党)は5日、「バイデン氏は中国共産党の悪意ある行為からすべての選手を守るため世界を主導すべきだ」と述べ、国際オリンピック委員会(IOC)に北京以外の開催を迫るべきだと訴えた。民主党のティム・ライアン下院議員も声明で「バイデン氏は中国にもっと責任を負わせるべきだ」と他地域での開催を求めるなど外交的ボイコットにとどまるべきではないとの声は超党派となっている。

 バイデン政権は民主主義や人権尊重などを共有する同盟・友邦国との連帯も模索しているのだが、日本の岸田文雄首相は7日「国益の観点から自ら判断する」と述べた。

 他国の状況を見ると、8日にはオーストラリアのモリソン首相が閣僚や高官などの政府代表を派遣しないことを明らかにした。選手は大会に参加する。首脳や政府使節団を送らない外交的ボイコットを表明したのは米国に続いて2カ国目。英国も8日にジョンソン首相が下院議会で中国の人権問題を理由に外交的ボイコットをするのかとの質疑に「スポーツのボイコットは支持しないが、確かに閣僚が出席する予定はない」と答え、3カ国目の外交的ボイコットの表明となった。

 欧州連合(EU)欧州議会は7月、中国による政府代表や外交団の招待を受け入れないよう加盟国に求める動議を採択したのだが、拘束力はなくギリシャのミツォタキス首相はすでに五輪出席の意向を表明している。

 台湾では立法院(国会に相当)が全面的ボイコットを含む厳しい対応を求める決議案を審議中。決議案は台湾独立志向の野党が提出。五輪に参加する台湾の選手が中国で拘束される危険性にも言及している。与党の民主進歩党の一部は賛同するが「台湾が率先して中国を刺激すべきではない」との意見もあり、与野党の協議が続いている。韓国は8日、韓国大統領府高官が「韓国政府は現在、ボイコットを検討していない」と記者団に明らかにした。

 インドはジャイシャンカル外相が北京五輪開催を支持する姿勢を示しており、政府高官が「スポーツと政治は別だ」と述べるなど、米国の動きとは一線を画す立場を取っている。

 冬季五輪を新型コロナウイルスの克服と習近平国家主席の権力を内外に宣伝する重要行事と位置付けている中国は、バイデン米政権が外交的ボイコットに踏み切ることを念頭に「もともと、米国の政治家を招いていない」(中国メディア)などと事前に予防線を張ってきた。また6日には中国外務省の趙立堅報道官が記者会見で「米側が独断専行するならば、中国は必ず断固とした対抗措置をとる」と報復を予告。同時に「中国と米国の重要分野での対話、協力に影響を与えないよう、米国はスポーツを政治問題化すべきでない」と牽制。同じく6日には在米中国大使館の劉鵬宇報道官がツイッターで「来ても来なくても誰も気にせず、北京冬季五輪の成功に全く影響はない」と反発した。

 米中両国は、貿易やハイテク、安全保障など幅広い分野で対立を深めているが、五輪が新たな対立点になるのは避けられない情勢となった。