「まだまだ大人になりたくない」【36歳のLOVE&SEX】#20

一年ぶりに会った友人との食事会の様子

 今年の1月に婚活をしている友達のことを少しだけ記事に書いたのだが「ときめきがなくても生きていける?」【36歳のLOVE&SEX】#2 その彼女と約1年ぶりに会った。なんと、婚活に成功し、入籍をしたらしい。

 失礼な話ではあるが、彼女が本当に結婚をするとは思っていなかった。もっと言えば、結婚したいという気持ちがそんなに強いものだったことも、私は気づかなかった。だが彼女の気持ちは本物で、この一年その強い気持ちを持ったまま婚活を続けたのだった。相手の人も、話を聞く限りでは、これまでの彼女の生き方や趣味を大事にしたまま暮らしていけそうな、とてもお似合いの人だと感じた。

 年明けに一緒にご飯を食べたあの日、いつも通りの時間を過ごしたはずの私たちだったが、あの日から実はお互いに「一年後必ずいい報告をしよう」と決意して、この一年を過ごしていたのだった。

 私もこの日彼女に伝えたいことがあった。転職が決まったのだ。

 大学卒業後に新卒としてソフト・オン・デマンドに入社してから14年以上が経った。この業界のことも好きだし、やりがいを感じる瞬間も多かったし充実していたと思う。

 それでも、辞める理由なんて100個くらいは思いつきそうだ。
体力の限界は何度も感じたし、精神的にキツかったことも挙げればきりがない。職場の人に嫌なことを言われたり、絶対に仲直りできないくらいに喧嘩をしたこともあった。

 はじめてソフト・オン・デマンドに来たのは、2006年4月、大学4年生になって就活を始めたばかりの頃。

 当時の私は何がしたいとか、仕事を通してどうなっていきたいとか、全くイメージができていなかった。あんまり働きたくないし、なにしろ大人になりたくなかった。

 というのも、中学生くらいの頃に、会社員になって量産型の大人になって、死んだ目をした30歳くらいの自分のイメージが唐突に浮かんできたことがあるのだ。何の脈略もなく、ふと頭の中に沸いて出た将来の自分の像は、あまりにも不気味でぞっとした。情熱を注げるものがない、好きなものがない、ただ社会に生かされているそんな人間が自分にとっての「大人」のイメージで、そんな大人にはなりたくないと思っていた。

 そんな中でたまたま参加した、SODグループの新卒説明会。

 説明会では、会社の事業の説明(全く覚えてないけど…)のあと、会社の中を先輩社員たちが案内してくれた。

 会社内は活気があって、人間が生きているエネルギーを感じた。それは私が中学の頃からイメージしていた大人とは全く違っていて、だからここで働きたいと思った。

 入社後は、仕事そっちのけで会社の運動会の準備ばかりしていたり、同期みんなで朝まで会社に残って資料を作ったり、しょうもないことで泣いたり怒ったり、たまに先輩に理不尽な理由でキレられたり、それをネタにして飲んだり、今思えば意味のない時間をたくさんたくさん過ごしてきた。でもとにかくみんなが熱かったし、毎日エネルギーがすっからかんになるくらい忙しくて、楽しかった。

 私にとってやっぱりソフト・オン・デマンドは青春だったし、死ぬ直前に思い出しても原点だったと言い切れるだろう。

 最近の私は中学の頃に持っていた大人のイメージに近づきつつあった。我慢したり、ほどほどにこなしたり、人の顔色を窺ったり。一応仕事をして生活費を稼いでなんとなく社会にぶら下がって生きている。自分自身はそんなつもりなんてなかったけれど、いつからか夢がなくなっていた。何の夢もビジョンもなくただ仕事だけをしている自分は、まるでゾンビみたいだと思った。もうとっくに死んでいるのに、「仕事をしなきゃ」という義務感が私の死体を動かしている。気持ち悪い。

 このままゾンビとして社会をさまよって誰かに殺されるのを待っていていいのだろうか? 私はやっぱりまだ人間として、もっとときめいて生きていたい。だから外の世界に旅に出ようと決めた。もうこの場所には戻らない旅になるだろうけど。

 一通り辞める経緯を報告したあと、私たちはタッカンマリを食べてお腹いっぱいになり、友達は夫の待つ家へと帰っていった。

 一人電車に乗ると、全身からタッカンマリの臭いが漂って、まわりの人に申し訳ない気持ちになった。あと1週間も働けば有給消化になる。人より少し長い冬休みを目の前に、楽しみ半分、どうしたらいいか惑い半分だ。スマホのメモにやりたいことをリストアップしていくが、こんな時期だし旅行もいけないし、今しかできないことが全然思いつかない。とりあえず、6年くらい使っていたMacが壊れているのを1年以上放置していること、会社から支給されているノートパソコンを返却することから、パソコンを買い替えることだけ決意した。せめてやりたいことくらいは思いつくようになりたいものだ。

 年が明けたら、私の新しい旅が始まる。もう36歳だけど、私はまだまだ「大人」にはなりたくない。

田口桃子…2007年、新卒でソフト・オン・デマンド(株)に入社。
営業、マーケティング等の部署を経て、2013年に女性向けアダルトサイト「GIRL’S CH」を立ち上げ、以降サイト運営・企画・広報を担当。2020年より女性向け風俗店「studioCH」の立ち上げ・企画・広報を担当。2021年末にソフト・オン・デマンドを退社するが、今後も“女性の性の選択肢を広げる”をテーマに発信を続ける予定。