日大の不祥事から始まる「大学改革元年」【鈴木寛の「REIWA飛耳長目録」第13回】
昨年の暮れは、日本大学の前理事長が脱税事件で逮捕・起訴されたことが世間を騒がせました。その直前には、附属病院の医療機器導入を巡って元理事と出入りの業者の癒着に特捜部のメスが入り、大学に対して約4億円の損害を与えたとして背任罪で立件もされました。
日大の事件はこれから裁判でも詳細が解明されていくでしょうが、前理事長が「独裁的」な地位を学内で確立し、教授陣も物を言いづらい構造になっていたのは間違いありません。日大は学部だけでも16を誇り、学生数約73,000という規模は、早稲田(約50,000)や慶応(約33,000)を上回って我が国最大です。
それなのに特定の1人になぜ権限が集中してしまったのか、あるいは暴走した時になぜ監視できなかったのか。上場企業なら株主がまだ経営陣を監督できますが、大学は「非上場」なので、教育者でもある経営陣の良心に負うところが大きい。日大ほど酷くはなくても、いまの私立学校のガバナンスに欠陥があることが露呈しました。
文科省は昨年来、弁護士や公認会計士など企業統治を知り尽くす有識者による「学校法人ガバナンス改革会議」が検討を進めてきました。年末に提出された報告書では、現在の制度では、理事長の一定の重要事項を諮問する「評議員会」を最高監督・議決機関に格上げ。学内の理事が評議員と兼務することも多かったのですが、これを全て外部の人材に委ね、理事や監事らの選任・解任もできるという、いわば“株式会社化”を提案しています。
文科省としては、日大事件を世論の理解が得やすい“機会”としてこの改革策を推し進めたいところなのでしょうが、今度は各私立大学が猛反発。今月中に設置される新しい会議体で具体的な制度設計をするということで仕切り直しになりそうです。
私自身も、文科大臣補佐官だった数年前から、大学ガバナンスのあり方について申し上げてきました。制度のあり方に関しては、色々な意見もおありだと思いますが、大学の理事の皆さまに意識していただきたいと常に申し上げてきたのは、2030年代の大変革に向けて、どんな大学を作っていくかということです。
コロナ禍でさらに加速する少子高齢化の一方で、人生100年時代。高卒直後の若者受け入れに偏重していた日本の大学が、社会人向けの学び直しの機会をさらに充実させること、AIやソサエティ5.0の時代に消える職業が多い中で、どんなスキルを身につけるか–。日大の事件を逆手に、2022年は、大学関係者がこれからの学びの場づくりを真剣に考える元年になればと思います。
(東大、慶應大教授)
鈴木寛
1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。
山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。
2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。
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