話題の技術「NFT」って何ですか?『NFTの解説書』著者・足立明穂さんに聞いた
「2021 ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた「NFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)」。大手企業が相次いで参入し、経済産業省が実証実験に乗り出すなど話題が尽きないが、そもそも「NFT」とはどんな仕組みでなぜここまで注目されているのか。発売1カ月で3刷となった書籍『だれにでもわかる NFTの解説書』(ライブ・パブリッシング)の著者で、ITビジネスコンサルタントの足立明穂さんに聞いた。
「これからNFTによって世界が変わっていくことを知ってほしい」
もともとビットコインから始まるブロックチェーン技術に興味があった足立さん。
「昨年から“NFTアートが75億円で落札された”などのニュースが飛び交い始め、リサーチしてみたところ、NFTが私たちの今後にとんでもないインパクトを与えそうな技術だということが分かってきたんです。 アートやゲームだけでなく、いろいろなビジネスや業界にかかわり、普段の生活にも影響します。それを知ってもらうためにさまざまな事例を取り上げ、何がいくらで売れたかだけでなく、その裏にどんな仕掛けがあってなぜ価格が高騰するのか。NFTが今後社会とどうかかわって、広がることで何が変化するのかを予想し、これからNFTによって世界が変わっていくことを多くの人に知ってほしいと思って執筆しました」
そもそもブロックチェーン技術とは?
「簡単にいうと、商店や会社などで売買金額を記録する台帳のデジタル版だと考えてください。従来の台帳は一冊の原簿があって、そこにすべてを記録し、記録も閲覧も限られた人が行います。ブロックチェーンでは、デジタルの台帳がインターネットを介してたくさんのコンピュータにコピーされ、それぞれに同じデータが置いてあります。1台のデータを書き換えた場合、他のコンピュータと比較し、間違っていると上書きされてもとに戻る仕組みになっています。従来のシステムを中央集権型、ブロックチェーンを分散型といって、いろんなコンピュータに台帳が分散され、誰かが書き換えたとしても瞬時にもとに戻るので、不正や改ざんが起こりにくいのが特長です」
では「NFT」とはどんな仕組みだろうか。
「デジタルの証明書だと思ってください。たとえばルーブル美術館にあるレオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザには、とんでもない価値があります。ルーブルにあるその1点しかないことが希少価値を生んでいるのです。でも、私たちは美術の教科書やテレビ、映画などでモナ・リザのコピーやレプリカを見ますが、それらに原画と同じ価値があるかというとそうではないですよね。
デジタルの世界では、アーティストが作品をウェブで発表すると、SNSでいいねやシェアされてどんどん拡散していきます。でも、アーティストが作ったオリジナルのデータとコピーしたデータはまったく同じもので、その結果、いざアーティストが作品を売ろうとしても売れない状況があったんです。NFTという技術が登場して、アーティストが作った最初のデータに“これはオリジナルだ”という証明書をつけられるようになりました。証明書をつけた作品は世界に1点しかないので、希少性があってアートコレクターやファンの人は手に入れたい。リアルのアートの世界と同じように、デジタルの世界でも1点物ができるようになったのがNFTの証明書としての働きで、これがいろいろな世界に影響を与え、変えていこうとしているのです」
小学生のピクセルアートが高額取引されて話題になったが、価格が高騰する理由と落札した人の楽しみ方は?
「NFTアートの価値をどう評価するかは、モナ・リザに感動する人もいれば何とも思わない人もいるのと同じで、まず人によって価値が違うものだということが前提です。そのうえで、今はものすごい数のNFTアートが発表されていて、著名なコレクターが買うと台帳に記録が書き込まれて誰でも見えるので、“このシリーズは人気が出るんじゃないか”と急に高額で取引されることがあります。たとえば小学生のNFTアートは、スティーヴ・アオキというコレクターの購入がきっかけでした。
作品を手に入れた人の楽しみ方は、同じように作品を探している仲間内で見せて自慢するとか(笑)、最近ではNFTアートを飾る仮想空間があって、その中で美術館のように作品を展示して鑑賞する人もいます。ただ、今はやはり投資や投機の対象として、いずれ価値が上がるだろうという感覚で買って、高騰したら転売して新たな作品を買うという人が多いです」
アート以外の「NFT」にはどんなものがあるのか。
「面白い動きとしてはスポーツ業界に広がり始めていて、パ・リーグ6球団がメルカリと組んでNFTトレカを出します。野球選手がホームランを打ったシーンなど、名場面の短い映像をNFTにして販売するそうです。そのうちNFTがもっと一般的になると、スマホの中に入れて野球好きの人同士で見せ合ったり交換したりということが起こるでしょう。海外ではNBA Top Shotというのが一番成功した例で、コロナ禍で試合ができず収入が激減していたところに、NFTトレカを売買するマーケットを作り出して新たな収入源となりました。
また、リアルとNFTを組み合わせて所有権を販売するという取り組みも行われています。楽座という会社はアニメのセル画の所有権を販売していて、気に入ったセル画を自分の手元に置くことや、自分の所有権を欲しい人に転売することができます。ウイスキーの樽を購入できる権利というのもあって、権利を使えば中身を瓶詰めにして送ってくれるし、欲しい人がいれば転売できる。NFTといろんなものを組み合わせてビジネスができるので、今は思いついた者勝ちでアイデア勝負の世界になっていますね」
これから「NFT」を始めたい場合、どうすればいいのだろうか。
「現在は暗号資産(仮想通貨)での売買が圧倒的に多いので、まず暗号資産取引所に登録し、暗号資産を手に入れてNFTマーケットプレイス(売買プラットフォーム)に登録し、そこから暗号資産で売買を行います。今後、クレジットカードを登録して誰でも簡単にNFTが売買できるようになると思うので、現時点ではNFTは何なのかをきちんと学んで知識をつけてほしいですね。最初のうちは野球が好きな人は野球、アイドルが好きな人はアイドルのNFTトレカを買ってみるなど、身近なところから始めるといいと思います」
最後に読者にメッセージをお願いします。
「特に中小企業や個人でビジネスをやっている人にとって、NFTは大きなチャンス。本の中では、いろんなジャンルの事例を取り上げたので、きっとあなたのビジネスとの関連やヒントになる部分があるはずです。これからNFTが広がる時代にどうやってビジネスを展開したらいいか、新しい価値を見つければいいかをつかみ取ってほしいと思います」
(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)