太鼓芸能集団 鼓童・初主演の豊田利晃監督による音楽映画『戦慄せしめよ』東京での上映は2月10日まで

渋川清彦演じる世阿弥の幽霊のような男が松明を太鼓のように振り下ろす(©越島)

鼓童の演奏を際立たせる「ブーストサウンド上映」

 また今回、音楽家として初めて映画に携わることになった日野は「映画は初めてで、時間もなく(2020年9月から3カ月で制作)、音楽に集中するしかなかった。こんな映画になることを想像すらしていなくて驚いた」という。中込は「一曲通せないような状態で稽古していた期間があって(そのまま)撮影に入っていた。出来上がった映画を見て、豊田監督はこういう佐渡を見ていろいろなことを感じていたんだなと、後から知った感動がありました」、それを受けて住吉が「撮影に入る前に、監督に全曲(演奏を)見てもらう機会があった。映画を見るとその緊張感をいつも思い出します」と振り返り始める。豊田は「その(演奏を見る)前に、僕らは実景撮りでいろいろな極寒の、たとえば40mの波が立つ崖っぷちで撮影した後に到着した。そんなグロッキーな状態で(聞いた)鼓童の太鼓の生音に驚いて“これ、撮れるのかな”ってカメラマンと話しました。日野君の音は難しすぎてカットを割りにくいから撮影の説明が大変だった」と現代的なミニマル音楽を撮る難しさを語ると、日野も「“Games”という曲の銅鑼のタイミングがすごく変則的で、カメラマンに銅鑼のタイミング出しをする人が“次のタイミングで銅鑼が来ます! 来ます!……来ませんでした!”となっているのを横で聞いていて、それ(タイミング)、僕が出したほうが良くない?と思っていたことを、映画を見ながら思い出してちょっと笑っちゃいました」と現場を回想する。

 生の演奏体験が主戦場の鼓童にとっても、映画のためにテイクを重ねるというのはこれまでにない体験だった。住吉は「一番映画の力を感じたのは、滝の前で演奏した時」と振り返る。「映画だと一瞬しか使用されていませんが、実はまるまる2回演奏しているんですよ。1回やって、30分ほど休憩してもう1回。実際使われているのは2回目なのですがめちゃくちゃ寒くて。直前まで着込んでいて“行きます!!”と2人で脱いで構えて。滝もすごい音で、反対側の中込の音が全然聞こえないような感じで演奏していたんです。でも “本番用意!”となったら寒くて震えてたのがスッと止まって、滝の音も静かになった感じがして。その瞬間、初めて映画の力というのを感じました」と振り返る。冒頭、夕日の崖っぷちで演奏している中込は「僕が褌一丁で太鼓を叩いているシーンは1分ほどの短いソロなのに、それをやりきった時に立っていられないほどフラフラになって。そんな経験をしたことがなかったので感極まりました。それに本当に寒くて。ケツが凍るんじゃないかというほどでした(笑)。 何テイクか撮っている間に、素っ裸に近い僕を、みんなが “人の壁” になって、ミツバチのように次の撮影の時間まで温めてくれたんです。密を避ける時代に、やはり人の力ってすごいんだなと。みんなの力に(よって)叩かされている気がして、ありがたい経験をしました。それに、あのロケ場所に太鼓を運ぶ事自体、ものすごく大変なんです。ごろごろ転がして、重たい太鼓は10人ほどいないと持ち上がらない。だから、本当に “人の力でできた映画” だと感じています」と語った。