下北沢にミニシアター「K2」が誕生した理由「好きだった名画座がなくなって…」

オープニング作品は濱口竜介監督初の短編オムニバス映画『偶然と想像』 ©2021 NEOPA / fictive

雑誌、オンライン、マナームービー…新たな取り組み続々

 これから映画館を運営するうえで、新しい取り組みについても聞かせてください。

「K2は71席しかないミニシアターなので、ここだけでビジネスを組み立てるのはやっぱり難しい。クラウドファンディングと同じで、映画館以外の場所にどうファンを作って応援してもらえるかが重要だと思っています。取り組みのひとつとして、『MAKING』という雑誌を定期的に刊行する予定です。書店は映画好きな人との接点が多いはずなので、映画館が主体となって本を発行し、小規模出版の専門取次を使って一般書店に流通させるというチャレンジです。そこで下北沢という地域や、この映画館のファンになってくれる人を作っていけたらと思っています。

 もうひとつは『BASIC』というプラットフォームを使ったオンライン配信で、月額型の会員制度を作って、会員の方には劇場で上映している映画の関連作品や参考作品を見られるようにする取り組みです。どうしても外出する頻度が減っている中で、毎回映画館にこなくても家からK2が体験できて、会費で支えていただく仕組みを考えています。雑誌やオンラインを含めて映画体験を提供し、上映作品に関係する知識をインプットできるようにしていきたいです」

 上映前のマナームービーに地元の方が出演しているのも面白いです。

「この映画館がいかに街に溶け込むか、街の人に自分ごとだと思ってもらえるかを考える中で、マナーを呼びかける映像に参加していただくアイデアが生まれました。見にきた人がそのまま帰ってしまうのではなく、終映後にそのお店に遊びに行ってもらうなど、いい形で映画館から街へ周遊するきっかけになればいいな、お店の人も出演して自分ごとになってもらいたいなという思いでやっています。商店街の方にお声がけに協力してもらうなど、街の人と一緒に取り組んでいます」

 実際に「K2」を開館してお客さんからの反響はいかがですか?

「まん延防止等重点措置が発出される中でのスタートとしては、かなりのお客様に来場いただけていて素直にうれしいなと思っています。お客様を見ていると、地元の方と映画や(上映中の)濱口竜介監督に興味のある方が混じっている感じで、“シートの座り心地がよくて、ゆっくり見られるのがいいね”とか、カフェも含めた全体の雰囲気を評価していただく声が多いですね」

 オープニング作品は濱口竜介監督の『偶然と想像』、特集上映も濱口監督特集〈言葉と乗り物〉と、インクラインも含め監督との縁が深いのには何か理由があるのでしょうか。

「もともと濱口監督と何らかの形でかかわっていた人が、たまたま近い関係性の中にいて結びついていきました。最近の監督のご活躍は本当にすごいとしか言いようがないのですが、すごさを感じる理由のひとつに、ある種の一貫性があってブレずにやり続けているところがあります。『ドライブ・マイ・カー』も、タイトルロールが始まるところから濱口作品が始まる予感と言いますか、村上春樹の原作から浮遊していくようなイメージを受けました。そうした確固たる作家性があり、その個性がブレることなく、ある種戦略的に“受け”を意識した調整なども行わず、不思議と人の持っている興味や好奇心を呼び起こす。“絶対にカンヌでパルムドールを取るだろう”とみんな思っていたんですけど、その作家性を薄めないままの作品がアカデミー賞まで届くんだということに驚いています」

 現在は『偶然と想像』、特集上映〈言葉と乗り物〉のほか、いとうあさこ主演のディストピアコメディ『鈴木さん』を上映中の「K2」。今後も杉田協士監督の『春原さんのうた』が公開を控え、近隣のお店や施設とのコラボレーションなど、さまざまな展開を考えているという。

 最後に大高さんから読者にメッセージをお願いします。

「まずはオンラインコミュニティーを立ち上げようと思っているので、そこにぜひ参加してもらいたいと思います。コロナ下の状況で気軽にお越しくださいとは言いづらいですけど、オンラインの取り組みなどご自身の参加しやすい形でK2に興味を持って、かかわってもらえるとうれしいです」

(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)