SNS発のイラスト短歌本『パラレル百景』は「僕の中の“エモい”部分」歌人・笹公人さん
北村さんの発想に「毎回“こうきたか”という驚きと発見」
こうして五十首の短歌とイラストをまとめた『パラレル百景』について「僕の短歌を北村さんが自分なりに解釈し、イメージの自由度を壊さない形でイラストにして、近田さんが見開きで一首という斬新なデザインにしてくださった。歌集のような画集やコミックスのような不思議な手触りの本が出来上がりました」と語る笹さん。
中でも共著者の北村さんには「予想以上のイラストを仕上げてくれるので、楽しみと期待感しかなかったですね」と感謝する。
「たとえば〈もし君がキエーーと奇声あげながらヤシの実割ったとしても 好きだよ。〉は、僕としてはジャイアント馬場みたいに手でチョップするイメージだったのですが、北村さんのイラストでは足で割っている。〈夏の夜の団地の部屋のカーテンに海を想えば海は見えくる〉も、僕は外から見た団地全体のカーテンをイメージしていて、〈予定地に光の柱のぼらしめ宗教画めくマンションチラシ〉も、完全に昼間のイメージだったんですけど“夜できたか”みたいな。明らかに僕が意図していた解釈とは違うのですが、毎回“こうきたか”という驚きと発見がありました」
『パラレル百景』は出版後、これまでのファン層以外からも大きな反響があった。
「もともとはお笑い短歌やSF短歌、オカルト短歌と呼ばれる作風なのですが、今回は北村さんに描きたい歌を選んでもらいました。僕の中にある“エモい”部分をすくい上げてくれたので、僕の短歌を知らない若い世代にも受け入れられているのかなと思います。この本の前に、面白狂ってるイラストの水野しずさんと一緒に『念力恋愛』という本を出版しまして、“ああいう過激な路線でいくのかと思ったので、ホッとしました”というファンの方もいました(笑)。あれはあれで僕は好きなんですけどね。
ロックバンド『羊文学』の塩塚モエカさんが帯文を寄せてくれて、パネル展など書店で視覚的な展開もあったので、若者の目にも留まりやすかったのではないでしょうか」
編集を担当したトゥーヴァージンズの小泉宏美さんは「イラストと短歌、それぞれに伝えたいことがあって、見えている景色は違ってもいい。決して“この短歌にはこのイラスト”と型にはめているわけではなく、もっと深いところでつながっています。カバーもちょっとノスタルジックな感じと、SFっぽいイメージをうまく表現していただいたと思います」とアピールする。
ちなみにこの本の中で笹さんがお気に入りの三首を選んでもらうと--
〈中央線に揺られる少女の精神外傷(トラウマ)をバターのように溶かせ夕焼け〉
〈何時まで放課後だろう 春の夜の水田(みずた)に揺れるジャスコの灯り〉
〈そうこれはだいだらぼっちが黒い海に民家をつぎつぎ投げ入れる音〉
「最近作った歌だと、ポロッとできたんですけど〈「ゆるす」というたった3文字のパスワード忘れていたね 朝焼けの窓〉は女性人気が高いですね」