SNS発のイラスト短歌本『パラレル百景』は「僕の中の“エモい”部分」歌人・笹公人さん
SNSで短歌ブームに「近代以降の名歌や秀歌に触れて」
今年に入って書店で関連書の特設コーナーが増え、老舗文芸誌「文學界」で初の短歌特集が組まれるなど、SNSを中心に若者の間でブームの兆しを見せている短歌。そんな世の中の動きを笹さんは「短歌ブームって2~3年に一度は言われてますけど、いつも静かなブームで終わるんです(笑)」と言いつつ、冷静に分析している。
「確かに僕が選者を務める『アイドル歌会』や、若手の歌人が話題になることが今年は特に多い印象です。福岡の書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)という出版社が短歌レーベルを作ったことで、歌集が普通の書店に並ぶようにもなりました。今は時間もお金もみんなスマホに取られてしまい、単純に本を買うことが少なくなって、映画も早送りで見るっていうじゃないですか。小説を最後まで読むのは根気がいるので、短歌の一行で読めるところが時代のニーズと一致しているのかもしれません。
同じように作るほうも、作家になるのは大変だけど表現したい気持ちがあって、“短歌ならすぐできるじゃん”という感覚になるのでしょう。とはいえ作るほうも読むほうも、短歌の伝統を分かっていないと三十一文字を組み合わせたただのパズルになってしまう。本格的に短歌をやりたいという人は、少なくとも近代以降の名歌や秀歌には触れてほしいです」
表現の力で、日常からふわりと異次元の世界へ連れていってくれる『パラレル百景』。最後に笹さんからもう一度本の魅力について語ってもらった。
「ストーリーをたどる本ではないので、どこから読んでもらってもいいし、気に入った絵だけを眺めてくれてもいい。その日の気分でおみくじみたいにめくってもいいんじゃないですか。どのページも部屋に飾りたいくらい素敵な絵なので、リラックスできる時間にそっと開くのにちょうどいい。紙の質感や印刷の色みはツイッターや電子書籍では味わえないので、ぜひ手に取って読んでほしいですね」