経済思想家・斎藤幸平氏、SDGsブームに「“有機野菜のジュースを飲んでいるから大丈夫”はおかしい」
『エシカル白書 2022-2023』(山川出版社)出版記念イベントが7日、東京・代官山 蔦屋書店にて行われ、経済思想家で東京大学大学院 総合文化研究科准教授の斎藤幸平氏がパネルディスカッションに登場した。
『エシカル白書』とは、持続可能な社会の実現に向けたキーワード「エシカル(ethical、倫理的な)」をテーマに、識者との対談や論考、海外の先進事例や統計データなどを日本初の白書としてまとめたもの。
2020年刊行の著書『人新世の「資本論」』(集英社新書)で「脱資本主義」「脱成長」を主張し、45万部を超えるベストセラーとなった斎藤氏。
自身が唱える「脱成長」について「単純に、先進国の経済成長を優先するような社会のあり方をやめるべきだということです。なぜこの考え方が重要なのかを簡単に説明すると、2022年はストックホルム会議(国連人間環境会議)から半世紀、リオ+20(国連持続可能な開発会議)から30年、SDGsの中間年でもあります。考えてみると50年近く前から“このまま行くと地球環境がヤバイ”と言われながら、多くのケースで悪化している状況」と指摘。
さらに「この2年間くらいでSDGsブームとなったわけですが、達成度ランキングを見れば日本はむしろ下がっている。私は明らかに自己満足でやっているSDGsを“大衆のアヘン”と呼んでいるのですが、その理由はSDGsがくだらないのではなく、真に必要とされている転換から目をそらしてしまっているのではないかということ。今、私たちが直面している文明が崩壊するかしないか、生物多様性が崩壊して地球で生きていけるどうか分からない危機を前にして、“有機野菜のジュースを飲んでいるから大丈夫”というのはよく考えたらおかしい」と警鐘を鳴らす。
そのうえで「今の社会には膨大な無駄や過剰なものがあふれていて、そうした無駄なものをより選択的に、進んで手放す必要があります。資本主義は“経済成長するために環境にやさしいものを作りますよ”という方向に私たちを誘導するけれど、“脱成長”の視点を取り入れながら議論していくことによって、初めて本当に公正な移行の道が切り開かれ、SDGsや脱炭素を達成できるのではないか。脱炭素が目指しているものが、もっと公正で平等で自由な社会であれば、私たちはどこかでこの行き過ぎた資本主義と呼ばれるものに何らかのブレーキをかけていかなければいけない。それが“脱成長”であり、本来SDGsが目指すべきシステムチェンジ」と斎藤氏。
また、エシカルな社会を作るためにできることを問われると「私たちは先進国にいて、たとえば代官山みたいな場所にいれば、世界中からいろんなものが集まってきて便利に暮らせる。じゃあ、今、アマゾンの熱帯雨林を守るために立ち上がっている人たちは誰か。あるいはバングラデシュで石炭火力発電所の建設に反対している人たちは誰かを考えれば、私たちのこの生活によって生活がボロボロに破壊されている人たちが命を賭けながら何とか未来を守ろうとしている。今まで散々ボロボロにしておいて、未来を守らせることまで彼ら彼女らに押し付けるのか。
私たちは自分たちが何ができるのかということを考えなければいけないし、そのプロセスにおいてこれまで前提としていた価値観や規範を学び直していかなければいけない。むしろ私たちの下でさまざまな形で抑圧されてきた人たちから学ぶことによって、初めてより新しく公正な社会のあり方が開かれてくるのではないか。それは“今日から節電しよう”というような簡単な話ではなく、もっと声に耳を傾けなければいけないし、自分の加害性にも向き合わなければいけない」と訴えた。
その他のパネリストは国立環境研究所 地球システム領域 副領域長の江森正多氏、認定NPO法人「アニマルライツセンター」代表理事の岡田千尋氏。ファシリテーターは一般社団法人エシカル協会の大久保明日奈氏。