100年前の女性が作った植物標本の奇跡 湯島『ポール・ヴァーゼンの植物標本展』

 2023年春のNHK朝の連続テレビ小説が、植物学者の牧野富太郎をモデルとした「らんまん」に決まった。にわかに植物学に注目が集まりそうな今、あまりにもささやかで美しい、個人史のような植物標本の書籍『ポール・ヴァーゼンの植物標本』(リトルモア)が話題となっている。同書を企画した飯村弦太さんのアンティークショップ「ATLAS antiques」(文京区湯島)にて、書籍に収めた植物標本を展示する『ポール・ヴァーゼンの植物標本展』が開催中だ。

「ATLAS antiques」で開催中の『ポール・ヴァーゼンの植物標本展』

 各線「御茶ノ水駅」より徒歩約9分。小さなビルの階段を上がり、ドライフラワーのスワッグがかけられた白い扉を開けると、可憐な花を一枚一枚丁寧に張りつけた植物標本が整然と並んでいる。これらの標本は、およそ100年ほど前、ポール・ヴァーゼンという女性によって個人的に作られたものだ。

 昨年4月に現在の場所に移転した「ATLAS antiques」。店主の飯村弦太さんは、美術関連の会社から独立してアンティークショップを始め、パリや南フランスを中心に買い付けを行う。2017年の晩夏、いつものように蚤の市で買い付けしていた飯村さんは、小さな紙製の箱に目を止める。そこには飾り文字で「Melle Paule Vaesen」と書かれた押し花が入っており、フランスやスイスの高山植物を中心とした100枚ほどの花の標本が収められていた。

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