歴史は「古代」からではなく、「近現代」から教えた方がいいと思うんだけど〈徳井健太の菩薩目線 第142回〉

　どうして歴史を学ぶとき、古い時代から学ぶんだろう。

　ふと、自分は学校で、なぜあんなにも縄文時代をはじめとした古代のことを学んだんだろうと思うときがある。学ぶこと自体は良いことだと思うし、大人になって、先人たちの知恵から学ぶところだって大いにある。

　でも、現役の学生たちの教養や教育というものを考えると、もっと先に知っておかなければいけないこと、学んでおいた方がいいことってあると思う。どんなに勉強しても、意味がわからなけば、物事の仕組みや社会の不可思議さを紐解くことなんてできない。

　たとえば、今、ロシアがウクライナに侵攻している。なぜロシアはウクライナと揉めているのか。そうした疑問を持ったとき、ロシアの近代史、あるいはウクライナの近代史、もっといえば近代のヨーロッパ史を知っているほうが、自分の中で納得のいく答えを見つけることができると思う。

　日々のニュースは、大人だけじゃなくて子どもたちも目にしている。当然、子どもたちの中にも疑問や関心を覚える人だっているに違いない。でも、学校で教えることって、どういうわけか教科書を1ページ目から順々にめくっていくという杓子定規な教え方ばかり。

　歴史の教科書で言えば、近代に辿り着くのは、もうだいぶ後になってから。人によっては、身長だって10センチくらい伸びているかもしれない。先生によっては、時間の配分を間違えて、「近現代に関してはアンダーラインのところだけ覚えるようにしてください」なんて教え方をしていることもあるんじゃないか。俺が学生だった頃、そんなことはしょっちゅうだった。もっと「意味」を教えてくれる勉強がしたかった――なんてことを、大人になってから気が付く。

　先生の都合もあるだろうし、アタリの先生もいればハズレの先生もいる。こればっかりはギャンブルみたいなところがある。だったら、たとえば歴史に関しては、近現代から教えていけばいいんじゃないかと思う。

　そう考えると、算数や数学ってよくできている。足し算や引き算がわからなければ、掛け算も割り算もわからないし、掛け算や割り算がわからなければ、その先にある方程式も解けない。基本がわからないと面白くならないようにできている。

　数学は基本的なこと、言い換えれば「必要なこと」から教えていく。どうして歴史や地理ではそんな教え方ができないんだろう。 数学で、いきなり√の計算式から始まっても、理解も興味も関心も生まれづらいだろうに。この先社会に出ていく子どもたちに対して優先したほうがいいことって、どう考えても身近なテーマに紐づく歴史や倫理だと思うんだけど。

　生徒を「伸ばす」といっても、成績をだけに執着したらもったいない。可能性も伸ばしてほしい。一度嫌いになった科目を、何かの拍子でひっくり返って好きになる可能性なんて、宝くじが当たるのと一緒だよ。

　良い先生に巡り会えるか否かによって、その科目が好きになるか嫌いになるかなんて、やっぱりおかしい。先生の教え方次第で、子どもの可能性が変わるのは、あまりに不公平だ。そうした不公平さを感じたくないから、教育系ユーチューバーが人気になっているのかもしれない。関心の入り口は、たくさんあった方が良いに決まっている。

　物理の論理を難しく説明されるより、大谷翔平選手のホームランがなぜあんなに飛ぶのかを知りたい。身近なテーマをもとに、支点、力点、作用点を解説してくれたらいいのにと思う。

　子どものやりたいことからやらさせてほしい。必ずいつかどこかで、基礎が大切だと気がつくから。これってあらゆることに言えること。私事で恐縮だけど、お笑いも同じ。最初は尖った笑い、シュールな笑いをしたがる若手ってたくさんいる。でも、あるときから必ずベタなこと、基本的なことが大事か……もっと言ったら、「基本」こそ最強だということに気が付いていく。

　いった方がいい。たくさん伸びしろのある学生たちほど。