「Web3.0」に注目する起業家たち その心構えとは?

特集「Web3.0」Webビジネスの さらなる未来 ~起業を意識する人の心構え~

 いま、世界で多くのスタートアップが生まれている「Web3.0」(※1)。日本でも今年6月7日に閣議決定された通称「骨太方針2022」でWeb3.0の推進に向けた環境整備を掲げており、同領域での起業に興味を持つ人が増えると予想される。意識すべきこと、そして起業を考えている人にとってWeb3.0がもたらすものとは?

解説・今泉裕美子(Startup Hub Tokyo 丸の内コンシェルジュ)…広告代理店を経て映画、映像作品をはじめ多彩なコンテンツビジネスに携わる。2008年、東京コンテンツインキュベーションセンター(TCIC)のインキュベーションマネージャーに就任。2011年から14年までアニメ制作会社にて新規事業開発を手掛けた後、再びTCICに着任。

「Web3.0領域での起業以外でも知っておけば可能性は広がる」

Q.「Web3.0」の定義とは? 
A.「本質は“非中央集権型”」

 単純に「Web2.0」と比較して、ブロックチェーンやメタバースといった新しい技術が使われる次世代インターネットを総称して「Web3.0」と呼ぶ人も多いですが、Web3.0の本質は「非中央集権型」という特性にあると言われています。Web2.0時代は、一般のユーザーがSNSなどを通して参加できることで盛り上がりましたが、一方でGAFAMと呼ばれる巨大IT企業にコンテンツや情報、富が集中する「中央集権型」でした。Web3.0では、そういった特定の管理者のもとに運営される形ではなく、同じ権限を持つ、それぞれの判断で自主的に集まった匿名の参加者が集い、インターネット上でアプリケーションやプロジェクトを展開できる「非中央集権型」「分散型」という特性があります。課題も多く、その可能性や実現性はまだ見極められていないものの、自由度や公平さ、格差の是正といった可能性に引かれてWeb3.0に参入しようという人は多いです。

Q.Web3.0は一過性のブーム?
A.「世界の行政がWeb3.0施策に動いている」

 これについては専門家にも両方の意見があると思いますが、部分的に淘汰されたり形を変えたりという可能性はあっても、Web3.0への流れは続いていくと思われます。すでに世界各国の行政が、これが一過性ではないと示す動きをしており、遅ればせながら日本でも「骨太方針」の基本戦略の1つに「ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)の利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備」をあげており、金融業界や法曹界に向けて政府が働きかけを始めていると思われます。これも、国がWeb3.0が一過性で終わるとは見ていない証といえると思います。

Q.Web3.0はビジネスチャンス? 
A.「多くの人を巻き込む可能性大」

 Web3.0ビジネスの注目点としては「NFT」「DeFi」「DAO」があげられます。近年、NFTアートに高値がついて話題になったことで、Web3.0ビジネスというとそういった投機的なイメージを持っている人も多いかもしれませんが、いま世界が模索しているのは、非中央集権型という仕組みによってもたらされるビジネスの可能性です。マーク・ザッカーバーグ氏は会社名まで「メタ」に変えてしまいましたが、本当にWeb3.0ビジネスは“儲かる”のか見えてくるのはこれからでしょう。ただ、メタバースはWeb2.0時代からあった「Second Life(セカンドライフ)」と同じようなもの、という声もあります。当時はハードのスペックなどの制約もあり一般の人が広く参加するには至りませんでしたが、Web3.0はより多くの人を巻き込んでいく可能性が大きいと思われます。通信環境やPCのスペックも向上していますし、NFTアートの売買やゲームをプレイしたり、DAOに参加するなど入り口も多様で、暗号資産・トークンが必要になることが多いですが、一般の人でも参加しやすい。多くの人が参加すれば、現状のさまざまな課題の解決や、メタバース用のヘッドセットのような周辺機器の開発もますます進むと思われます。

 また、現在Web上で完結できているビジネスは当然、Web3.0とも親和性が高いものが多いと思います。対面の必要のない売買や、AIを組み込んだサービスのような、現段階でイメージできる分野以外からも、いままで想像もしなかったビジネスが生まれるかもしれません。

Q.Web3.0を意識して起業する人へ
A.「リテラシーを高め実際に参加してみる」

 Web3.0領域での起業を考えている方へ。基本的に新たな市場の黎明期には、参入者が少ないぶん先行者優位を取れる可能性があります。一方で、新領域ではリテラシーの高さ低さで勝敗が分かれることも多く、徹底してリテラシーを高めることが必要です。どんな分野であれ、新しい市場や、ゼロを1にするビジネスをする以上、自分が第一人者になるくらいの覚悟が求められます。とくにWeb3.0は日々情報が更新され、法律や税制なども不透明な部分が多いだけに、参入するならそれなりの心構えが必要だと思います。

 また現状、日本においては行政をはじめ各所が整備を進めている途中で、金融や法律面でのサポート環境も整っているとはいえません。銀行で融資を受けるのも難しく、リテラシーの高い投資家も限られている。法律面でもWeb3.0に詳しい弁護士が少ない。支援や資金調達先も限られているということを理解したうえで起業を考えたほうがいい状況です。

 ちなみに海外ではWeb3.0ビジネスのスタートアップに熱い投資合戦が繰り広げられており、リテラシーが高い投資家も多い。また、日本の従来の税制では暗号資産への課税が新興企業にとってかなりの負担となるケースが多く、海外での起業を選ぶ人もいます(※2)。日本でも、自発的にWeb3.0領域に挑もうとする人は少なくないようです。

 一方、Web3.0領域ではない起業を考えている人も、知っておけば自分のビジネスの可能性が広がるかもしれません。起業家とは何かしらの課題を解決するもの。例えばエンターテインメントの分野でも、ブロックチェーン技術によってライセンス譲渡やクリエイターの権利の担保といった従来の課題が解決できるといわれているように、さまざまな分野の課題解決に活用できる可能性があります。

 ただし、やはりまだ未知数な部分は多く、いずれにせよ「流行っているから」「儲かりそうだから」といった理由で飛びつくのは危険です。どんなものでもよいので、まずはWeb3.0関連のサービスを自身で利用して、実際にWeb3.0の世界で何が行われているのか、参加する人たちが何を思いどう動いているのか、肌感覚で知ってみると良いと思います。

 

 

※1…本誌では「Web3」=「Web3.0」とする。 ※2…金融庁と経済産業省は、2023年度税制改正で、企業が発行したトークンのうち自社保有分に対する法人税の課税方法を見直す方針で議論するとしている。
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