横浜流星主演!“邦画の特異点”になりかねない映画「線は、僕を描く」の、ここがスゴい【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 現在、演劇DUO福斗清☆ 旗揚げ公演「絶対にNTRれないオ・ト・コ」に出演中です。

 公演中に別の作品のオーディションの審査が入ったりと大変なひもありますが、なんとか事故なくやってます。

 30日までですので、ご興味のある方はぜひ!

 では今週も始めましょう。

黒田勇樹

 影のある青年が、水墨画という文化に出会い成長していき、その中で天才女流水墨画家と関係を深めていくという、あらすじや宣伝だけだと、小説原作なんですが「スゲーよくある、少女漫画原作の実写化風!」みたいな作品。

 三浦友和さん、江口洋介さん、富田靖子さんと、脇を固める俳優さんたちの豪華さからも「ベテランをオカズに、横浜流星くんをペロペロ味わうだけの“ファンから小銭を巻き上げればいい”系の映画」だろうと、思って観始めたのですが…

 ストーリーの展開や演出は、もう完全に「少女漫画原作の実写化風」と僕が呼んでいる手法そのもので、音楽もコテコテだし、アップとかスローの多用。

 若者向けなので、全然否定はしないですが「こういうのが流行る時代が来ると、もう俺の思う(筆者は40才です)“映画”とは概念が変わってきてしまうんだろうな」と、近年思い続けていたスタイル。

 なのに、めっちゃ興奮してめっちゃ泣いた!!

 まずは水墨画の世界に入っていく主人公を媒介に、文化や技法の説明で知的欲求を満たしてくれて、そこから絵や作家を通して“生き様”や“命”の話になっていくと、精神的な部分も満たされていく。

 ラスト、チープな恋愛や人間ドラマに逃げず、作品全てのメッセージが、テーマそのものを表す「一筆」に集約されたのも最高に良かった!映画館で「そうだよね!」って叫びそうになりました。

「ローマの休日」のラストシーンの「ローマ」が、僕のいう“映画”なんですよ!それがあの一筆にはあった!

 どう考えても、画家役の俳優さんのほとんどの方が実際に描いているカットが多数あり「どんだけ練習したの!?」というところも見どころ。

 ピアノならある程度指運びを覚えれば、音色は後からプロのを乗せればいいし、ボクシングやスポーツなら、スピード感を出すために早送りしたり多めにカットを割ったりしてテンポを上げれば、ある程度観られるようになるテクニックがあるんですが、水墨画だけは「え、CG?いや、無理だよな…これ本人が書いてる~~~!!!」と、唸りました。

 元々、そういう素養のあるキャストを集めたのか、猛特訓したのか。

 出てくる、というか“描かれる”絵の全てが、作中で傑作と呼ばれていることに全く違和感のない完成度であることに、邦画界の意地とか底力が溢れ出ている気がして、また感動。

 蛇足ですが、ヒロインの清原果耶さんの眼力というか表情がずっと素晴らしく“眉間フェチ”の筆者には最高のご褒美でした。

 新しい手法でも、ここまで“古き良き映画に迫る”いや、“最新の邦画の完成形のひとつ”と言えるような可能性を感じる傑作でした。

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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。