堀潤、三遊亭鬼丸ら次世代がん検査を語る「BEYOND 2020 NEXT FORUM」番外編

「今後はがん種の特定に特化した技術を研究していきたい」と広津崇亮代表取締役

「線虫ががんのにおいを嗅ぎ分ける精度はどの程度のものなのでしょうか」

広津「もともと線虫の嗅覚の解析自体は昔からある技術で、においの強さと線虫が離れるか近づくかの割合は比例することが分かっています。そこに私が20数年培ってきた研究ノウハウを加えて精度を高めているのですが、医療研究の場合はさらに臨床研究を積み重ねないといけません。起業してから3年を臨床研究に費やし、国内外の共同研究機関で症例数を数千件に増やしたうえで86.3%というデータが取れたので販売を開始しました」

「私たちにとって身近な脅威である “がん” ですが、今後はこの技術をどのように活用していきたいですか」

広津「今、世の中にあるがん検査はすべて精密検査に近いのですが、本来スクリーニング検査というのは健康な人に受けてもらい、可能性のある人が精密検査をして診断するものだと思います。私たちはまず精密検査につながる入り口として、採尿するだけで費用もリーズナブルながん検査を作りたかった。とはいえ、『N-NOSE』を受ければすべてが解決するわけではなく、そこがうまく発信できていなかったかもしれません。

 また、入り口の検査と精密検査の間には “がんの種類を特定する” 検査が必要なので、今後はそこに特化した技術を研究していきたいと考えています。今月17日には早期すい臓がんを特定する検査の実用化について発表を行いました」

鬼丸「僕自身の体験として、自治体の健康診断には入っていない項目だったので、今後は自治体や会社でそういう検査もできるようになるといいですよね」

広津「一般の人が利用しやすい検査ができれば、がんというのは本当に早期で見つかるし、早期で見つかればがんは治せる病気です。そこまでいって初めて “人類はがんに勝った” と言えると思います」

「Well-Being(身体的・精神的・社会的に良好な状態)という言葉が広がっていますが、ライフサイエンス分野の技術を使ってどんな世界を作りたいですか?」

広津「健康年齢という言葉もありますが、ただ長生きするだけではなく健康に生きないといけないわけですよね。これまでの医学は病気になってから治療していたのですが、これからはいかに体の異変を検査などで見つけて予防するかが大事で、多くの人を幸せにできるのではないかと思っています。ある程度の年齢になると誰しも “病気になったら嫌だな” と考えるわけですが、そういうものがない世界をもし作ることができれば、人類の病気に対する考え方が変わるのではないでしょうか」

鬼丸「僕は病気になって初めて、家族を残して死ぬというのはどういうことなのかを考えました。生と死を客観的に考える機会がなかったので、それまでは “死んだら死んだでそんなものかな” とか “芸人って早く死んだほうが格好いいかな” と思っていたのですが、死生観はやっぱり変わりましたね。そのうえで “もうちょっと生きたいな” という気持ちは肯定だと思うので、僕自身が意外と今までの人生をどこかで肯定していたんだなということが分かりました」

「確かに、検査というのは結果がよかったらよかったで、 “悪かったらどうしていたのかな” と死生観を考えるひとつのきっかけになりますよね」

鬼丸「僕のパパ友も、自治体の健康診断で要再検査が出ただけで “2週間で3キロ痩せた” って言ってました(笑)。そういう意味で、検査しながら自分の生き様をたまにチェックするのもいいのかなと思います」

(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)

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