松山ケンイチが戦慄の介護殺人犯を演じた理由「先を生きている大人としてやるべきことを考えたい」

©2023「ロストケア」製作委員会

長澤まさみと真っ向対峙「恋人より目を合わせてるかも」

 今30代。まだ介護を身近に意識している人は少ない世代である松山が、本作のテーマに深い思いを注ぐ理由は…?

「僕自身も、ほとんど介護について意識したことはなかったんです。今、自分の祖母の介護を、僕の父親がやっていたりしますけど、それまでは身近で関わることがなく、ほとんど考えたことはありませんでした。でも、考えてみれば若い世代への負担がどんどん大きくなりますよね。少子化ですし、自分の子どもやこれからの世代は、確実に今よりもっと負担が大きくなる。そう考えたとき先に生きている大人として、やっておかなければいけないことって、未来への備えについて考えておくことじゃないかな、と思うんです」

 映画デビューを果たしてから20年。「よく分からないまま今に至るという感じです(笑)」と笑う松山だが「映画は、見る人もスクリーンに集中するのでドラマや舞台とはまた違った小さな芝居ができる。映画のお芝居では、その人物をただ生きるということを意識しています」と、映画だからこその表現を心から大切にしている様子。

「本作では、柄本さんは僕が10代のころからお世話になっていて、そういう関係があるからあのような親子になれた。長澤さんとは初共演だったから、ああいう対峙の仕方ができた。ずっとこの世界でやってきたからこその、すごい巡り合わせだなと思いました」

 42人を“救った”という斯波と、彼を殺人犯として裁こうとする大友。初共演となる松山ケンイチと長澤まさみが、一歩も譲らず互いの正義をぶつけ合う殺人者と検事の攻防を、渾身の演技で体現する。

「取り調べのシーンが5日間ほどあったんですが、その芝居の間、僕たちずっと目を合わせているんですよ。これって家族より恋人より目を合わせてるじゃん、と思いました(笑)。斯波と大友は、対峙しているときに基本的に目を外すことがない。互いの正義のぶつかり合いなので、目線を外したほうが負け、みたいになるんです。少しでも目線を外してしまうと重要な意味を持ってしまうから、絶対に意味なく視線を外すことはできなかったんです。長澤さんの目線を受けながら、目って裸だな、と思いました。目っていろんな情報を表に出せる。隠せないので、ダイレクトにその人自体が見えてしまう。すごい発見でした」

 松山と長澤が、まさに目線で演じきる取調室での攻防はまさに鳥肌もの。見る者は皆、2つの正義の間で大きな葛藤を覚えるはず。絶対的な信念のもとにぶつかり合うそれぞれの正義に、衝撃のラスト15分がもたらすものとは…。
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)

撮影・辰根東醐

『ロストケア』
【監督】前田哲
【出演】松山ケンイチ 長澤まさみ 鈴鹿央士 坂井真紀 戸田菜穂 峯村リエ 加藤菜津 やす(ずん) 岩谷健司 井上肇 綾戸智恵 梶原善 藤田弓子 / 柄本 明
【原作】葉真中顕「ロスト・ケア」(光文社文庫刊)
【配給】日活、東京テアトル
【公開】3月24日(金) 全国ロードショー
(C)2023「ロストケア」製作委員会
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