黒田勇樹「バブルがあって、映画も演劇も法令順守のルールがテレビ局に準じたものになってしまった」〈インタビュー前編〉
規模によってロックにやったりポップにやったり
この場合の過激というのは?
「殴ったり蹴ったり、汚い言葉を吐いたり。そういう作品って、全部Netflixをはじめとする配信メディアに行っちゃったじゃないですか。あれは1周して、演劇がやっていたチケット代=作品の価値を配信メディアが視聴料=作品の価値に戻した。だから、いいディレクターさんはみんな向こうに行ってしまいました。この配信メディアが出てきたことで、テレビ界のバブルにより全部がテレビのルールになってしまい、バブル終了後もそのルールの順守が全業界で続いてしまっていたことに対して、やっと揺り返しが来るかなというところという印象ですね」
黒田さんはその中でどういうふうに向き合っています?
「作るものの規模によって分けています。50人しか来ないものの時はそこそこロックにやって、200人超えたらポップにやらなければいけないという肌感覚ですね」
50人というのは「三栄町LIVE」で行っている小劇場演劇ですね。5月からTOKYO MX2で放送される「J-BOTケロ太」というドラマの監督をしていますが、こちらは?
「J-BOTケロ太はどポップです。地上波ですから。劇場のものもネット配信はあるんですが、有料なのでお客さんしか見ない。そういうものとお客さん以外も見るものという分け方ですね。自分たちがグリップしているお客さんが見るものの中では結構好き勝手しています。ただし、地上波や200人以上の劇場、ふらっと見に来るような人が見るもののようなときにはポップさを大事にしています。
最近のコンプライアンスの問題としてはジェンダーの問題がありますよね。例えばなんですが、レズビアンの女の子って女の子同士だからって、僕の好みの女の子の胸を触ったりするわけですよ。女子高の女の子同士がいちゃいちゃするみたいに、女の子の胸を触る。それに対し僕は“お前、俺と性癖は一緒で、この前飲んでた時に「あの子かわいいよね」って言ってたんだから、お前が触っていいなら俺も触ってもよくなるぞ”と言って怒るわけです。
この下りは演劇ならできるんですが、地上波ではこの意見をこのまま言ったら怒られる。筋は通っていると思うんですよ(笑)。でも、これを地上波で言おうとしたら“あんまり女の子同士でもそういうことをしないほうがいいんじゃないかな?”って言わなければいけない。この例えってすごく分かりやすいと思うんですが、どうです? これがまさにそうで、これをそのまま文字にしたときに世の人がどう受け止めるかというのが今僕らの抱えている問題なんです」