黒田勇樹「ネットでは議長がいない会議が延々と繰り広げられている。9割がよしと言うことをやろうと思ったら平和で無難なものしか作れない」〈インタビュー後編〉
2チャンネルとニコニコ動画以降、ものの見方が変わる
令和5年を描くときに、この時代の40代は妻とかパートナーとか言うでしょうが70~80代の人たちは、嫁とか奥さんの文化で生きているので、令和5年が舞台のドラマであっても70代の人は嫁とか奥さんと言うでしょう。見ている側が、そういうことに関し目くじらを立てないようにというか、理解して見てもらわないと狭苦しい世の中になってしまいそうですね。
「それについては2つあって。まず一つ目は『やすらぎの里』が流行ったじゃないですか。あれはお年寄りのお話だったからお年寄りしか出てこなくて、お年寄りしか見ていなくて、同じ時代を生きた同じ世代の話だから見ていてストレスがないですよね。それで高齢化社会ということもあってすげえ客層をゲットしました。もう一つ、見ている側の話でいうと、今おっしゃっている問題は、2チャンネルとニコニコ動画以降なんですが、ものの見方が感想を人とシェアするところまでがパッケージになってしまったということが大きいと思います。だから作り手側も何かを言われる可能性を気にして作らなければいけなくなった。SNS上で感想を交換するから、声の大きい人たちが変なところを突つきだすと、普段は気にしない人もその感想を目にしたことで、気にして見るようになってしまう」
ドラマで70歳の老夫婦が「うちの奥さんが」と言っているのを見て「この時代にうちの奥さんが、とか言ってるよ」ってツイッターで書き始める人がいるということですね。
「そうです。“差別的な夫だ”って言い始めると、そういうところは他にもないかなと思って見てしまう。感想を言うために」
「これは令和5年の時代を描いているが、70歳の人は昭和から生きている人で、そういう時代を生きてきた人だから、奥さんって言うんだよ」という説明ができればいいが、作り手側もわざわざそんなことはしないし、やってる暇もなく面倒なので唯唯諾諾と受け入れて作ってしまう。「うるせえ、関係ねえ」と思って作りたくてもスポンサーの意向もあるからそうもいかないという悪循環?
「そうですし、“うるせえ関係ねえ”という人たちは有料の配信に行っちゃってます。残っている人は大多数を見るほうの人たち。今、番組制作側がこういう意図で作っていますということを難しいとか面倒なので唯唯諾諾と受け入れて作ってしまうといったことをおっしゃっていましたが、そうではなく、インターネット上には議長がいないんです。議長がいない会議が延々と繰り広げられるんです。そいつらのおもちゃ、と言ってはいけないな(笑)。そういう方々に、できるだけ多くの方々に楽しんでいただけるコンテンツにしなければいけない。議長のいない議論ができるコンテンツですね。
多数決ですらないですから。議長もいなくて多数決もないのに、議論しているんですよ(笑)。その議論で100人いる中で90人くらいがよしと言うことをやろうと思ったら、そりゃ平和に無難なものしか作れなくなりますよ。そして本当に作品を見ていた人たちが“つまらない”と言って去って行って、議論が好きな人たちだけが残っていく」