本当に悲しみを知っている人の言葉には重さがある。現場で、目の前で見ている当事者の声を聞こう〈徳井健太の菩薩目線 第170回〉
“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第170回目は、動物と向き合う人たちについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
動物と真摯に向き合っている方々って素晴らしい。
BSよしもとの番組で、ヤンバルクイナの保護活動をしている方とお話をする機会があった。ヤンバルクイナは、沖縄県北部のやんばる地域に生息する鳥だ。絶滅危惧種――というイメージが強いヤンバルクイナだけど、意外なことに昨今は保護活動の影響もあり、やんばる地域には結構な数が生息しているという。
もともとは、那覇を含む沖縄県の中心部にもいたらしい。ところが、人が増え、街が開発されるにつれ、自然が消滅したことで、ヤンバルクイナは豊かな自然が残る北へ北へと移動していった。
その昔、ヤンバルクイナには天敵という存在がいなかったという。そのため、空を飛ぶ必要がなく、彼らは“飛べない鳥”になったそうだ。外敵から身を守る必要のない、平和の象徴のような鳥だった。
だったら、どうして絶滅の危機に?
沖縄にはハブが生息している。厄介な存在であるハブを退治するために導入されたのが、マングースだ。ハブ対策として沖縄県に解き放たれたマングースは、その期待にまったく応えることはなかったそうだ。
ハブは夜行性で、マングースは昼行性。つまり両者がにらみ合うことは、ほとんどなかった……というから、まるで落語のような展開だ。話には続きがある。
交戦しなかった結果 、マングースは繁殖した。あろうことか、ヤンバルクイナを襲い出した。自然に対する人間の介入なんてするもんじゃない。その典型。平和の象徴からすれば、突然現れた天敵。でも、彼らは飛ぶことができない。さらには、開発が進む島内で車にひかれるといった被害も加わる。気が付くと、ヤンバルクイナは減少の一途を辿っていたそうだ。
保護活動をされている方は、年間になくなるヤンバルクイナを「ゼロにすることはできない」と話していた。「どれだけ少なくすることができるかを考えていかなければいけない」とも説明してくれた。この言葉に、当事者だからこその現実を垣間見て、背筋が正される思いがした。
たとえば、交通事故をゼロにしましょうと呼びかける。でも、どう考えたってできっこない。きれいごとを言おうとすると、言葉はすぐに軽くなる。ゼロにしましょうと呼び掛けたところで、交通事故はいまこの瞬間も起こっている。どうすれば交通事故が減るのかを考えなければいけないはずなのに、俺たちはそんなことを考えることなく、日常を送っている。交通事故で被害に遭われた方を除いて。
「犠牲者を減らす方法を考える」。これは、犠牲者を見てきた人じゃないと言えない言葉だ。本当に悲しみを知っている人は、言葉に重さがある。現場の最前線で活動されている方々の言葉というのは、些細な言葉ですら、心臓に届いてしまう。
家の近くに動物病院がある。定期的に我が家の犬を診てもらうため、その病院に勤める獣医さんと話し込むことも珍しくない。獣医さんは、うちの犬のことをワンチャンとかこの子とは呼ばずに、「この人はね」なんていつも話す。
“人”だととらえている。
少し前、去勢手術について相談したことがあった。「子どもを産めなくなるということがこの子にとってどうなんですかね?」と相談すると、獣医さんはこう口を開いた。
「この人は飼い主さんと一緒にいることが幸せだと思う。私個人の考え方だけど、仮にとても辛い病気で入院したとして、その病気が治るかもしれないし治らないかもしれないといった場合、最後の命を飼い主さんのもとで全うさせたほうが、この人たちはうれしいと思うんです」
長生きしてほしいと願う飼い主は、きっと多いだろう。でも、犬自身が長生きを望むかどうかを考えたことはあまりなかった。自分の親が倒れて延命措置を望むか? と想像するといろいろな答えがあるはずなのに。動物だとなかなかそうは考えられない。獣医さんの言葉は、いつも現場で動物たちを見ている人だからこそのリアルなんだろうなと思った。
当たり前のことだろうけど、動物はそれぞれ個性があって個体差がある。一体、一体にアイデンティティーがある。なのに、俺たちは「キリンってどれくらいエサを食べるんですか?」と尋ねてしまう。
似たような質問をアシカを飼育している人に聞いたとき、その人は、「アシカによりますね」と教えてくれた。これが正解なんだ。
もしも宇宙人から、「地球人はどれぐらいご飯を食べるんですか?」と聞かれたら、皆さんだって、「人によりけりだと思いますよ」と答えるに違いない。それと一緒で、動物も1匹1匹、1頭1頭違うということを覚えておかないといけない。
当事者の話を聞くことは、とても大切なことだ。たくさん情報があふれている世の中にあって、現場で、目の前で見ている人たちの意見を聞くことって、何よりも純度の高い目線なんだなって、最近つくづく感じている。
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
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