〈今年に入り5000人超〉東京都で急増する「梅毒」とは?【気になる医療キーワード】

 東京都で感染者が急増している性感染症「梅毒」の報告数が、今年に入り全国で5164人に上ることが、23日発表の国立感染症研究所「感染症発生動向調査(速報データ)」にて分かった。「梅毒」とはどのような病気なのか。東京都医師会の川上一恵先生に解説してもらった記事を加筆修正のうえ再掲する(初出:2023年3月30日、肩書きは当時のまま)。

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「梅毒」の原因菌「梅毒トレポネーマ」(写真:Science Photo Library/アフロ)

現在、東京都の「梅毒」の感染状況は?

「梅毒」の過去10年間の報告数を見ると、昨年が3677人で圧倒的に増えており、今年に入っても5月14日までですでに1366人が報告されています。全国的にも増えているのですが、コロナ禍で海外からの流入が少なかったにもかかわらず、東京都では顕著に増加しています。海外のデータを見ると「梅毒」の感染者数は1995年以降抑えられており、輸入感染症だと麻しん(はしか)や結核もありますが、新型コロナウイルス以外の感染症で増加傾向にあるのは「梅毒」だけ。さらに、男性に比べて女性の感染が増加していることも懸念材料です。

 原因ははっきり分かりませんが、年齢階級別・性別報告数を見ると20代女性の割合が圧倒的に多い。これは恋人ができて結婚を意識する年齢層にもあたり、必ずしも風俗産業の従事者や利用者というわけではなく、ごく一般的な生活をしている人の中に「梅毒」が入り込んでいると考えられます。「梅毒」の特徴に一時的に症状が消える期間があって、それが検査や治療が遅れる原因のひとつにもなります。症状が消えても治ったわけではなく、体内に菌が残されているので感染拡大につながりやすいのです。

「梅毒」とはどんな病気?

「梅毒」は性感染症で、「梅毒トレポネーマ」というらせん状の細菌に感染することで発症します。病原体を含む分泌液や血液などが粘膜や皮膚と直接接触することで感染しますが、口腔にしこりがある、唾液に菌が含まれるといった場合は、オーラルセックスを含む性行為だけでなくキスでも感染するリスクがあります。妊娠中に梅毒に感染した場合、母体から胎盤を介して胎児が感染する「先天梅毒」が起こり、それに伴い流産や死産、知的障害などにつながる恐れがあります。

 ドラマにもなった漫画「JIN-仁-」で花魁のキャラクターが侵されていた病気が「梅毒」ですが、ドラマでは実際の症状よりもかなり美しく脚色されています。

「梅毒」の症状は?

 病状の進行は第1期~後期(第3期以降)に分かれます。第1期は感染後、1カ月前後で外性器や肛門、口などに1cm前後のしこりができます。痛みやかゆみを伴わない場合も多く、数週間で症状が自然に軽快するので、治ったと思って放置されることも多いです。第2期は治療せずに1〜3カ月以上経過すると、眼、口腔・咽頭、陰部、消化管、肛門など全身に赤い発疹(バラ疹)やぶつぶつができます。この時期は体内で「梅毒トレポネーマ」が一番増殖するので特に感染力が強くなります。この症状も、治療しなくても数週間~数カ月ほどで消えることが多いです。

 さらに1年以上が経過すると、全身にゴム腫と呼ばれるゴムのような腫瘍ができて、それが心臓や血管、脳などに広がり心不全や心臓発作、全身麻痺、認知症症状など重篤な症状を引き起こします。後期になるほど治療が難しくなり、治療したとしてもすでに臓器に生じた損傷が元に戻るわけではありません。後期に移行する前に適切な治療を開始することが重要です。

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