「自分が加害者だと気づくのはとても難しい」カンヌ脚本賞受賞の坂元裕二が凱旋会見で思いを語る

 

 第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した映画『怪物』(6月2日公開)の是枝裕和監督が29日、フランス・カンヌから帰国。羽田にて迎えた脚本家・坂元裕二とともに凱旋会見を行った。

『怪物』は大きな湖のある郊外の町を舞台に、2人の少年が周囲の大人や社会に波紋を投げかけていく物語。ドラマ『東京ラブストーリー』(1991年)や映画『花束みたいな恋をした』(2021年)などで知られる坂元裕二が脚本を、今年3月に亡くなった坂本龍一が音楽を手掛けている。

 コンペティション部門の公式上映後には9分半ものスタンディングオベーションで称えられ、坂元裕二の脚本賞と、独立部門「クィア・パルム賞」と合わせて2冠を獲得。

 会見の2時間ほど前に帰国したという是枝監督は、授賞式の前に帰国していた坂元に脚本賞のトロフィーを手渡し「無事に坂元さんにお渡しすることができてほっとしています」と笑顔。

 受け取った坂元は「実感は正直ありません。受賞したと初めて聞いたときは寝ていたものですから、第一報を聞いた瞬間、夢を見ているのかな、と。今もまだ夢の中にいるような思いと、この重み自体が作品への責任感。私自身の手にも背中にも乗った大きな責任だと思っています」と語り「ご覧のように、あまり感情の起伏がないものですから…」と報道陣の笑いをさそいつつ、静かに受賞の感慨を語った。

「たくさんの人からおめでとうという言葉を頂いたことが一番うれしかった」と言う坂元。「(クィア・パルム賞審査員長の)ジョン・キャメロン・ミッチェル監督から昨日、脚本賞受賞おめでとうございますというメッセージを頂きまして、タクシーの中で涙が出ました」と明かしつつ、どこを評価されたと思うかという質問に「自分ではなかなか評価しづらいですが、ミッチェル監督は、人の命を救う映画になってくいるとおっしゃってくださったので、誰かの心に届くならこんなにうれしいことはないなと思います」とコメント。

 物語の背景について「以前に車を運転していて、横断歩道で青になったのに前のトラックが進まず、クラクションを鳴らしてしまったが、そのトラックが車いすの方が渡り切るのを待っていたのが私には見えず、それ以来クラクションを鳴らしてしまったことを後悔していまして」と自身の経験を語りつつ「自分が加害者だと気づくのはとても難しい。どうすれば加害者が被害者に対してしていることを気づくことができるかなと10年近く考えていて、それを今回書くことができました」と振り返った。

 坂元の脚本について是枝監督は「何が起きているのか、半分過ぎても分からないのに読むのを止められない。自分にはない物語の語り口でしたし、読み進めているうちに、自分が作品に批評されている、いい意味で居心地の悪さがエンターテインメントとして面白く、チャレンジしがいがあると思った理由の一つ」と絶賛し、再タッグについて聞かれると「チャンスがあればお願いしたいけど坂元さんがもうこれで…ということだと困っちゃうけど、周りの人に声かけられてやってきたとおっしゃっていたので、声かけ続けようと思います」。

 一方の坂元も「脚本家・是枝裕和さんをとても尊敬していて見上げている存在なので、そんな方がまた僕に脚本を依頼するということがそうそうあると思いませんが、二回目という必然があったらこんなにうれしいことはないです」と再タッグへの意欲を見せていた。

 カンヌ国際映画祭での日本映画の脚本賞受賞は、2021年の第74回カンヌ国際映画祭にて濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が受賞して以来2年ぶり。是枝監督作品のカンヌ映画祭でのコンペ部門での受賞は2022年の『ベイビー・ブローカー』に続き2年連続となる。

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