〈日本とモルディブの意外な関係〉国民食はカツオ。東日本大震災では救援物資を寄付

リゾートホテル「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」のビーチ(筆者撮影)

「島民が暮らすローカルアイランドにはたくさんのゲストハウスがあり、現在、420ほどあります。リゾートホテルの数が、約150ですから倍以上存在します。ただ、ゲストハウスはローカルアイランドにあるため、イスラム教に則り、アルコールを飲むことはできません」

 旅気分を満喫したい人にとって、お酒を飲めないというのはデメリットだろうが、 アミートさんはこんな裏技を教える。

「別途料金が発生しますが、ゲストハウスのオーナーが近隣のリゾートホテルに連絡を取り、ボートでリゾートまで連れて行ってくれます。そこでランチやお酒を楽しむことができます。そこで泳ぐことも問題ありません」

 たとえば、朝食は地元レストランでガルディアを食べ、昼はボートでリゾートへ。アルコールを片手に透明な海を満喫し、夕方に戻ってくる。そんなローカルプランを楽しむ選択肢があるとは朗報だろう。

 もちろん、リゾートならではの楽しみ方も魅力が満載だ。

「早起きすれば、足跡も残ってないきれいな砂の上を歩くことができます。どこからか漂流して来た宝物(Treasure hunting)やビーチにいる小さなカニ、野鳥などを見ながら静けさと心地よい潮風を楽しめるでしょう。 夜になれば、視界を遮るものがないですから、180度地平線が見え、夜空には満天の星座と“南十字星”が輝きます。そして、ビーチ沿いも歩いてみてください。波打ち際に青白く光る幻想的な光景……これはプランクトンが波のエネルギーに刺激を受け一斉に青白く光る現象なのですが、運が良ければ見ることができるかもしれません」

ローカルアイランドでは、リゾートとは違う等身大のモルディブを体験することができる(写真提供:モルディブ大使館)

 また、モルディブは観光地としての側面のほか、“環境地”としても知っておきたい場所でもある。

 先述したように、モルディブの陸地面積は全体の1%に過ぎず、無人島を含むすべての島を合わせても東京23区の半分ほどしかない。さらには、その8割が海抜1メートル未満であることから、気候変動の影響をもっとも受ける可能性の高い国の一つとされる。

 温暖化が進んだ場合 、国連の「気候変動に関する政府間パネル」の報告書によると、2050年頃までに30センチほど海面は上昇すると言われている。モルディブにとって、環境問題は死活問題。GDPの3分の1を観光産業が支えているだけに、観光と環境を両立させることが不可欠となる。

「海面が上昇すると陸地が水没するだけでなく、珊瑚礁が白化してしまうという問題もあります。珊瑚礁は天然の防波堤のような役割をしていて、サンゴ礁は海流から陸地を守る役割を担っています。つまり、リゾートの周りは珊瑚礁で囲まれているんですね。珊瑚礁がいなくなると、ダイレクトに海流の影響を受け陸地が削られてしまう。

 そして、白化すればコーラルフィッシュの住処が無くなってしまいます。きれいなコーラルフィッシュがいなくなれば観光客は遠のいてしまう。コーラルフィッシュを狙う中型魚も来なくなると、中型魚を狙う大型魚もよりつかなくなる。観光産業も水産業もすべては珊瑚次第なのです」

 そのため、リゾートホテルでも徹底した環境対策が講じられており、リゾート開発をする際は伐採ではなく、樹木を根元から抜き他の場所へ植樹するといった配慮がなされている。部屋に常設する水もペットボトルではなく、ガラスボトルのみにするなど、リサイクルできるものはリサイクルする――その意識が、モルディブのリゾートには通底している。

リゾートでは、ごみの分別も徹底されている(筆者撮影)リゾートでは、ごみの分別も徹底されている(筆者撮影)

「自然に近いままの形でリゾート開発をしなければいけないと、法律で定められています。昨今は、再生可能エネルギー、特に太陽光発電にとても力を入れています。現在輸入に頼り切っているガソリンに関しては70%まで下げることを直近の目標としている。最近は、100%再生可能エネルギーだけで循環するリゾートホテルも誕生しました。モルディブは観光と環境を両立しなければならないのです」

 モルディブは、2030年にネットゼロを目指している。ネットゼロとは、温室効果ガスあるいは二酸化炭素(CO2)の排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにするという意味だ。日本の目標は2050年。先を行くモルディブという小さな島嶼国から、地球温暖化対策について学ぶことは多い。

 リゾートとローカル。観光と環境。異なる面が同居する不思議な国・モルディブ。日本同様、食卓にカツオが並ぶ光景を目にすると、遠かった国がなんだかぐっと身近に感じてしまうのは気のせいか。

 

(取材と文・我妻弘崇)

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