坂上忍「無駄と思える時間があるほうが何か幸せ」タイパ時代に好きなことをやり続ける意味
共通するのは一生懸命やっていると素敵な人に出会えること
レギュラー番組が終了して空いた時間は、自分の好きなことに挑戦する時間にもなった。そのひとつが自らも吸っているたばこの原料、葉たばこの産地に足を運ぶことだ。
「『バイキングMORE』をやっていたら、絶対できなかった時間が取れるようになって。もともと僕が猛烈な愛煙家というのが始まりで、去年は秋田、今年は沖縄の伊江島の葉たばこ農家さんに収穫体験に行きました。一応スケジュールは組んでいるんですけど、撮れ高を気にすることなく本当にのんびりした時間を過ごして。スタッフの方とも “じゃあ、うちに遊びに来ますか” と言って、昼からストロング系チューハイを飲みながら、ああでもないこうでもないと打ち合わせしてね(笑)。時間というよりも心の余裕ができました」
産地まで出掛けて葉たばこの収穫を手伝う中で、見えてきたのは動物保護ハウスにも通じる仕事に対する姿勢だ。
「葉たばこ農家さんたちは、種から育ててひとつの商品を作るわけじゃないですか。その足元には到底及ばないですけど、僕らも形のないものを形にしていて、共通しているのは一生懸命やっていると素敵な人に出会えるということ。世の中には本当にいろんな人間がいるので、“何でこんな人が働いていられるんだろう” と思うこともあるのですが、一生懸命ひたむきに仕事していると、ちゃんと仕事する人と出会う機会に恵まれます。
そのためにはごまかしながら仕事するよりも、やると決めたことを一生懸命やって、人からどう見られるかには期待しない。僕は世間できれい好きの潔癖症だと言われていますが、人間関係に対しても潔癖で嫌な人は嫌なんですよ。50歳を過ぎた頃からそれに拍車がかかってきて(笑)。あと何年かしか仕事できないと思ってるのに、残された年月を嫌な奴と仕事するのは嫌じゃないですか。これ以上、人に対して潔癖にならないといいなと思いながら、今、月の半分は動物と向き合っているので穏やかな生活を送っています」
産地に出向くほどの愛煙家ぶりにも驚くが、たばこに憧れるようになったのは忘れられない光景があったから。
「たばことの付き合いは36年目になります。僕は禁煙しようと思ったことがなくて、どれだけ具合が悪くても、舞台で喉を痛めた時でも隠れて吸っていたので、一日も吸わなかったことはないかもしれない。そういう意味では皆勤賞です(笑)。たばこを吸うようになったのは親父の影響が一番大きいのですが、たばこを吸うことが格好いいなと思っていたのは確か。僕の若い頃はテレビドラマなどでみんなが吸っていた時代で、お酒とたばこは大人になったらできるものというイメージでした。
たばこというと思い出すのが、ある監督さんに実家の近くの老舗のそば屋さんに連れて行っていただいた時に、白髪のご老人が昼間から板わさをつまみに熱燗を飲んでいたこと。締めにもりそばを一枚頼んで、最後に残ったつゆにそば湯を入れて、それを啜りながらたばこをくゆらせているのが最高に “格好いい〜っ” と思いました。一人で昼酒を楽しんで、のりが乗っているかどうかの違いなんですけど、ざるそばじゃなくてもりそばで締めて、“そばって一枚っていう頼み方するんだ” とか。最後にたばこをプカ〜っと吸っている姿が、粋というか大人のたしなみに見えて、憧れたことを鮮明に覚えていますね」