坂上忍「無駄と思える時間があるほうが何か幸せ」タイパ時代に好きなことをやり続ける意味
贅沢って無駄な時間が持てるから感じられるのかもしれない
近年ではメディアで喫煙シーンを目にすることも少なくなった。俳優であり、演出家、監督でもある坂上は、喫煙表現の規制についてどう考えているのだろうか。
「たばこって日常のものですから、アホだなとしか言いようがないと思っています。僕はコロナ禍で遅まきながらYouTubeやNetflixを見るようになったんですけど、日本の映画やテレビ番組を見て、一方で韓国やヨーロッパの映画を見ると、海外の作品ではバンバンたばこを吸っています。本来はたばこを吸ってない人もいれば吸っている人もいるのが当たり前で、当たり前を当たり前として描いているからすんなり見られる。日常的に目にする光景なのに、日常を映すはずの映画やドラマでその一部が排除されていることには違和感を感じますね。
たとえば “犯人はもしかしたらあいつなんじゃないか” というシーンで、昔だったらたばこに火を付けていただろうと思うけど全くないんだもの。今の時代をリアルに映すんだったら喫煙ルームだっていいわけじゃないですか。喫煙ルームがホタル族のコミュニティーになっているのがリアルなのに、全く映らないのはやっぱり気持ち悪いですよ。喫煙シーンが一切なくなるのはいびつだと思うし、不自然だし過剰だと僕は思います」
そこには表現者、愛煙家としてだけではなく、葉たばこの生産者を訪ねたからこそのこんな思いもある。
「喫煙シーンを規制したからといって、たばこがあること、それを作っている人がいること、買いたい人が買うことは変わりません。あらゆる場所からたばこを締め出す動きがあるけれど、これだけたばこという産業に携わっている人たちがいて、あり得ないほど税金を取られているにもかかわらず、“一次産業に従事している人たちをどうやって守りたいんですか” と言いたい。葉たばこ栽培が基幹産業のひとつになっている地域では、たばこがなくなることは死活問題につながりますから」
表現といえば、Z世代を中心に映画を早送りで見る「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉が叫ばれるようになった。自由になった時間を好きなものにつぎ込む坂上に、タイパについての考えを聞いてみると……
「“タイムパフォーマンス” って何なんですかね。たとえば2時間の映画を10分で見たとして、身に付くのは “何となく内容が分かった” ということだけでしょう? 10分に縮めちゃったら、“この俳優さんの演技はこうなんだ” とか “今回はこういう演技してるんだ” というのが全部分からないわけで、それを持ってして “タイパがいい” って言うこと自体がナンセンス。そもそもエンターテインメントって、芝居でもお笑いでもすべて “間(ま)” が勝負なので、間を取っ払っているのは何も見ていないのと同じ。もしかして一番タイパが悪いんじゃないですか?(笑)
タイパとか抜かしやがるなら、もうちょっと稼いでから言えっていう(爆笑)。大して稼いでもいないのにタイパとか言うなっていう話だと思います」
最後に坂上が今、一番大切だと思う時間の過ごし方とは?
「自宅でも『さかがみ家』でもそうなんですけど、今の季節だと18時〜18時30分くらいに空がオレンジ色になっていって、それを背景に動物たちがワーって走っているのを見て、ストロング系チューハイを飲みながらたばこをくゆらせている時。時間の流れが止まっているような時間というか、“あぁ、この時間のために働いているのかもしれない” と思います。
多分、贅沢って無駄な時間が持てるから感じられるのかもしれない。僕はタイパとは言いませんが、タイトなスケジュールでもやりくりできるけど、無駄と思える時間があるほうが何か幸せなんですよね。20〜30代と40代の働き方は変えたほうがいいし、50代でアホみたいに働けるのが格好いいという風潮は “やめてくれよ” と思う。勇気を奮ってその年齢や世代に合った働き方に変えて、ちゃんと老いていかないと。そういう先輩に僕は憧れていたので、いろいろ試行錯誤しながら、きっと50代が終わっちゃうんだろうなと思います」
(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)