演劇愛に溢れた映画『オジさん、劇団始めました。』を劇団をやっているオジさんが観てみた!【黒田勇樹のハイパーメディア映画鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 この1週間も出演させていただくJungle Bell Theaterさんの稽古に明け暮れる毎日だったんですが、気がつけば明日(9日)からスタートというあっという間の稽古期間でした。

 今回は二本立て公演で僕は10日が初日となる「夜行万葉録・戌」という作品に出演します。尋常じゃない暑さの中、みんな頑張っていますが観劇に来てくださる皆さんも道中お気を付けください。

 明日から始まる「おとぎ夜話・寿」も面白い作品に仕上がっているようですので、どちらもご覧いただければです。

 では今週も始めましょう。

映画『オジさん、劇団始めました。』ⓒ2022 リッチーフィルム

「家族との関係に不安を持ったオジさんが、突然劇団員になる」という奇想天外なストーリーの映画。

 ただ、記憶が正しければ、渡辺えりさんが「下北沢の屋台で会った70歳のおっさんに“俺は戦闘機に乗っていた。それに比べたら俳優なんか簡単なもんだろ”」と、言われて「じゃあ、やってみろよ!」つって、その人が主役の作品を書いたという逸話があった気がします。

 8歳ぐらいで観たのですが、素晴らしい作品でした。

“演劇は、何歳から始めても良い”

 これも、この作品の、大きなメッセージの一つですね。
 物語を観るということは「1回しかないはずの人生の中で、もう一つの人生を経験すること」なので、
それを“共有”する、と考えれば、必ず自分の人生を振り返ることで「自分にしか出来ない役」が、あるんだと思います。

 一度出演させていただいた事がある劇団プープージュースが、過去に上演した作品の映画化なのですが、やっぱり、骨太!

 ストイック過ぎて稽古中、夜空を見上げながら泣いた記憶があります。
“演劇”とか“劇団”に、対して、物凄くデフォルメはしているものの、嘘が無い。
コミカルもシリアスも、かなり“コテコテ”に演出されているのですが、鼻につかないし“演劇人たちの自己満足”に、なっていなくて、その先に家族愛とか人生とか、誰にでも伝わる普遍的なものが待ち構えていました。

 メタ的な視点でいうと2点。
「芝居が下手な人が上手くなっていく演技」って、めちゃめちゃ難しいんですよ!“演技をしながら演技する”2重構造で、更に劇中劇もあるので、“演技をしながら演技をしている演技をする”という離れ業。達者な人たちじゃないと出来ない、素敵な景色を見事に描かれていました。

 蒲田行進曲とかコーラスラインとか、SINGとか、撮影現場や劇場を舞台にした作品て傑作が多いのですが、演じるのは死ぬほど難しいんです。

 もう1つが「演劇が原作だからこそ」だと思うのですが、映像作品って「その日1日だけ撮影に参加する演者」とか、出してしまいがちなのですが、舞台は限られた人数で一つのドラマを作っていくので、登場人物たちの関わりが濃厚で、それがこの映画では、とても効果的に映し出されていたんじゃないでしょうか。

 多分スタートは演劇的な“人数制限”からの“工夫”だと思うのですが「この人とこの人が、こう繋がるんだ!」という驚きに昇華されていて「巧いな」と唸りました。

 演劇に興味がある人もない人も、映画が好きな人もそうじゃない人も、誰でも楽しめる作品だったので、是非皆様劇場へ!

映画『オジさん、劇団始めました。』ⓒ2022 リッチーフィルム

映画『オジさん、劇団始めました。』
監督・脚本:山本浩貴
出演:渡辺いっけい、やべきょうすけ、文音、田邊和也、中野マサアキ、久米伸明、西山咲子、窪塚俊介、葵揚、搗宮姫奈、犬飼直紀、磯原杏華、廣岡聖、高橋孝輔、伊藤桃香、三澤優衣/宮田早苗
配給:ユナイテッドエンタテインメント
8月18日(金)より池袋シネマ・ロサほかにて公開

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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23