音楽家の梶浦由記が活動30周年!アニソンで「自分の居場所が見つかった」
梶浦さんといえば、聞くだけで梶浦さんだと分かる曲調が特徴です。アニメの場合は多くが漫画やラノベなどの原作があり、その作品世界と梶浦さんの持つ音楽性とのすり合わせが求められると思いますが、どのように曲を作られているのでしょうか。
「そもそも私は昔から物語がすごく好きで、子どもの頃に本を読んで勝手に主題歌をつけたりもしていたんです。劇伴作家って基本的にひとつの作品の曲は全部一人で担当します。“世界であなただけがこの物語のために音を鳴らしていいですよ”と言われているようなものですから、これほど光栄なことはありません。そこで私がロクでもない音楽を作ってしまったら、世界にたったひとつの物語に対してとても失礼だし、音楽家としてそれに応えられないということもあってはなりません。
ですので、いつもその作品の読書感想文を書くようなつもりで作っています。読書感想文ってどうやってもどこかに自分の考えが出てくるじゃないですか。ひとつの物語を読んでも、私が書く読書感想文と、他の作詞家や作曲家が書く読書感想文は全然違うと思うんです。その作品に合った音楽を作ってはいるつもりですけど、どうしてもそこに自分の色が乗ってしまうというのはありますね。作品より自分が決して目立つことなく、むしろ自分をなるべく出さずに新しいことをしようといつも思うのですけど、どうしても出てしまうといった感じです」
ひとつの作品の劇伴を担当する時に、作品を理解する作業はどの程度の割合を占めているのでしょうか。
「劇伴の仕事においては作品を理解する作業が大部分を占めます。原作がある場合は、お話をいただくのはかなり前なんですよ。作品にもよりますが初めてお話をいただいて、打ち合わせをして実際に作曲に取りかかるまで1年時間が空くこともあります。つまり、1年くらい作品を読み込んでおく時間があるわけですから、監督と初めて楽曲の打ち合わせをする時点で、原作や脚本を全部読み込んで理解した上で臨みます。打ち合わせそのものは曲のイメージで分からない点を聞き合って、すり合わせをする作業が中心になりますね」
深夜アニメから世界的なヒット作が生まれたのと同じように、YOASOBIの「アイドル」をはじめ、日本のアニメ音楽が世界的にヒットしています。今のアニソンというものについてどう見ているのでしょうか。
「実はアニソンって、特定の音楽のジャンルを指す言葉ではないんですね。アニメの主題歌などに使われているから“アニソン”と呼ばれているのであって、その音楽はポップスでもジャズでも何でもいいわけです。そうした性質があるからこそ、アニソンと一般の曲との垣根がなくなってきたのかなという感じがするんです。ちょっと前までは、アニソンだから聞くとか、逆に聞かないという人もいましたが、そういった境界線みたいなものが薄れてきたように思うのです。大衆音楽とアニソンが同化してきているのかなとも思います。
『アイドル』という曲も、アニソンだからヒットしたわけじゃないと思うんですよ。世界中の人が聞いて、アニメを知ってる人はもちろん好きだけど、アニメを全く見たことがない人も含め、世界中の人がすごく喜んで聞いているという事態が起きているのだと思うんですね。だからアニメの曲だからといって流行ることもなくなるだろうし、逆にアニメの曲だから聞かないということもなくなるんだろうなっていう感覚はありますね」
(取材・文:河嶌太郎)